「あっれー、?珍しいね〜、こんなとこで会うなんて。」

まるで今日の空模様を表すかのような明るい声が、ビヴァーチェ広場に響き渡る。
様々な市場が並ぶ広場はどこも人で溢れ返り賑やかだ。
それも今日みたいなレガーロ晴れの日は特別で、どこもかしこも誰も彼もがふわふわと浮かれているように見える。

そんな休日の午後。

新しく出来たと街で噂のジェラテリアを訪れていたは、聞き覚えのある声に視線を上げた。
彼女は左手に小さめのワッフルコーンを持っており、控えめに盛られた淡いオレンジとイエローのジェラートが陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

「あら、パーチェ。あなたこそ、こんな場所でどうしたの?」
「おれは見回り。は今日は休みだっけ?」
「ええ。折角の休みなのに周りはみーんな仕事で、暇ったらありゃしないわ。」

溜息交じりに笑うは、言葉通り本当に暇なのだろう。
そうでなければこんな場所でジェラートなど食べている訳がないのだから。
甘いものが特別好きという訳ではない、どちらかと言えば苦手だということをパーチェは知っている。

「ここって新しく出来たジェラテリアだよね〜?おれもまだ来たことなかったのに、なんで誘ってくれないのさ。」
「誘うも何も・・・私だって来たくて来てる訳じゃないのよ?ただ、お嬢様に『、あの新しく出来たジェラテリアって美味しいのかな?オススメは?』なーんて聞かれた時に答えれないと恥ずかしいじゃない!あのデビトですら新しいドルチェをチェックしてるのに、私よりもデビトなんかを頼りにされちゃ困るわ!」
「あ、コーンよりもカップがいいな。うん、そう。一番大きいやつで。それからピスタッキと・・・あ、。今食べてるのは何?」
「パーチェ・・・・・人の話は最後まで聞きなさいよ。まったく・・・アランチャとリモーネよ。」
「じゃあ、この季節のオススメってのもお願いね。」

握り拳を作り力いっぱい答えるを綺麗に無視したパーチェは、次から次へとメニューを述べていく。
それに従って一番大きいであろうカップにカラフルなジェラートが山のように盛られていき、下の方は既に何がなんだかわからない状態になってしまっている。
店員が「もうこれ以上は無理だ」と呆れて言うと、「じゃ、まずはこれだけね。」とパーチェはニッと歯を出して笑った。

「相変わらずね。見ているだけで胸焼けがしそうだわ。」

先ほどからスプーンが進んでいないとは対照的に、パーチェは次から次へとジェラートを口に運んでいる。
そんなに一気に食べて頭が痛くならないものかと、はジェラートを小さく掬ったスプーンを口に含んだ。
爽やかな酸味が咥内に広がる。
の要望通り甘さは控えめで、素直に言うと美味しい。
ワッフルコーンも一口齧ると、こちらもパリっと香ばしく、どのジェラートとも相性は良さそうだ。
これならフェリチータに尋ねられても良い返事が出来そうだと、はふっと口元を緩めた。

「はい、。」
「ん?」

目の前に差し出されたスプーンには、濃いオレンジ色のジェラートが山盛りに乗っており、その意味するところを理解できずには首を傾げた。
「はい、あーん」というやつか?などと馬鹿げた考えた頭を過ぎった瞬間、ひやりと冷たい感触が唇に触れた。

「あー、!ほら、口開けないと溶けて落ちちゃうよ!」
「え?あっ・・・」

慌てて唇を開いた途端、スプーンと共にジェラートが口の中へと飛び込んでくる。
自分の一口が人と一緒と思わないで欲しいと、は口いっぱいに詰め込まれたジェラートを溶かしては飲み下してと繰り返す。

「おいしい?」
「マンゴーね。えぇ、美味しいわ。」

素直にそう答えると、パーチェが満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、今度はこっち。」
「それは遠慮しておくわ。チョコラータでしょ、それ。」

掬い上げたのはどこからどう見てもチョコレート色のそれで、さすがにそれは食べれないとは首を横に振った。
残念そうにそのままスプーンを自分の口へと運んだパーチェは、口に入れた瞬間に嬉しそうな笑みを零す。

(幸せそうな顔しちゃって。)

そんなパーチェの表情につられたのか、自然との口元も綻んでしまう。

空を見上げれば、レガーロ晴れ。
肌に感じる風も程よく冷たく心地が良い。
あちらこちらから聞こえてくる声はどれも活気に溢れて楽しそうで、平和を肌で感じることができる。
そして隣には、幸せそうにジェラートを頬張る幼馴染。

(良い休日ね。)

もごもごと口を動かしていたパーチェが、突然に席を立った。
視線をカップに移せば、山になっていたジェラートはすっかりと空になっている。
背後にあるカウンターからは店員の焦ったような声が聞こえ、出入り禁止にならなければ良いなとは控えめに笑った。

。ここ付いてる。」
「え?」

口直しのつもりなのか、柑橘系のジェラートばかりを盛ったカップを片手に、パーチェが自分の頬を指差した。
慌てて頬に手をやるも、パーチェは「そこじゃないってば」と苦笑するばかり。
さっきから自分が指差す頬とは反対ばかりを必死で拭うがおかしくて、パーチェは声を上げて笑う。

「だから、そこじゃないって。」

頬に当てた手を取り、自分の方へと引き寄せる。
背丈のわりに軽い体は、簡単にパーチェの腕の中へと移動した。

「ここだってば、。」

ふわりと淡いブラウンの髪が頬を撫で、柔らかく温かい感触を口の端に感じたはくすぐったそうに首を竦めた。
ちゅっと軽いリップ音を立てて離れたパーチェは、ペロリと舌を出して唇を舐めている。

「ありが・・・」
「おいコラ、パーチェ!!!!てめぇ、今何しやがった!!!!!」

が礼を述べるよりも早く、穏やかな空気を裂くような怒鳴り声が広場中に響き渡った。
誰もが何事かと好奇の視線を向けてくるが、当の本人は気付いていないのか怒りのままに声を荒げている。
こめかみに浮かんだ血管が破裂してしまいそうだ。

「デビト。あなたが広場に来るなんて珍しいわね。」
「あぁ?ただ通りかかっただけだ。・・・ってそうじゃねぇよ、!!てめぇも何されてんだよ!!」

声を荒げるデビトとは対照的にパーチェもでさえも、何故こんなことで怒っているのかと言いたげに顔を見合わせている。
だが、それさえもデビトにとっては気に食わないようで、眉間の皺は深く濃くなっていく。

「こんなことで怒るなんて・・・全くなんなのよ。昔からしてきたことじゃない。ねぇ、パーチェ。」
「そーだよー、デビト。デビトだってルカちゃんだって、昔はこうやって取ってあげて・・・」
「パーチェェェェェェ・・・・・・あなた今何をしたんですかぁぁぁぁ?」

しれっと言い合う二人に更に怒りの声をぶつけようと息を吸い込んだデビトの背後から、まるで地を這うような低い声が静かに響いた。
全員が背筋に冷たいものを感じ、ぞくりと肩を震わせる。
声の方へと視線を下げると、黒い物体がズズズとパーチェの足元へと這い寄っているところだった。

「る、ルカちゃん・・・・・・?」

引き攣る口元を隠さず、パーチェがルカと思われる物体に声をかけた。
隣のデビトもも同じく顔を引き攣らせている。
まるで化け物のように地面を這うルカから逃げるように全員が後ずさるが、じりじりと近付いてくるその異様な様子に遂にが悲鳴を上げた。

「やだ、来ないで!いやーーーー!!気持悪い気持悪いきもちわるぃぃぃぃぃぃ!!!」
「やめろ、!流石に気持悪いは言いすぎだ!!」
「でも、デビト!あれは流石にダメだって!!怖すぎるって!!」

一目散に駆け出した三人の後ろで、べちゃりと情け無い音がする。
振り向いた先で、の手から無残にも転げ落ちたジェラートが、地面にオレンジとイエローの綺麗なマーブルの染みを作っていた。






・・


「カードによって決議・・・するまでもありません!!力!今宵の罪人はあなたです!!」
「同感だァ!ラ・フォルツァ!てめぇ、覚悟しやがれ!!」
「そんなぁーーー!!理不尽だぁーーーー!!」







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