城塞都市、フォルトゥナ。
清々しい朝日が差し込む中庭で、昼寝というよりは二度寝に近い惰眠を貪っていた。
がさがさと茂みの中から音がする。
「ネロ!!」
甲高く俺を呼ぶ声がする。
「ネロ〜?」
目を閉じていても顔をまじまじ覗かれているのがわかる。
「おはよ、ネロ」
「………何か用?」
薄く目を開けて窺えば、そこには満面笑顔の。
「クレドさんが呼んでるの。一緒に来て」
「…めんどくせぇ」
今日は一体どんな話を持ってきたかと思えばよりにもよってクレドの呼び出し。
「来てくれないと私怒られるじゃない」
素早く移動して俺に向き合う。
「一緒に行こ?」
「……分かったよ」
「ありがと、ネロ」
「…さっさと行くぞ」
ありがと、の笑顔がなんだか照れ臭くてつい早足になる。
は優しい。
コンコン
「クレド、俺だ」
「入れ」
下らない考えを振り払うように執務室に入った。
「ネロ、、良く来てくれた」
「何の用だよ」
眉間に少し皺が寄ったクレドに手招きされ渡された書類を見る。
「ミティスの森で正体不明の生物が暴れていると報告があった」
「悪魔か」
「そうだ」
また始末書とか日々の態度について小言かと思っていただけに悪魔狩りは嬉しい。
「直ちに殲滅しろ」
「りょーかい」
コートを翻して扉に向かう。
「待てネロ」
「何だよ?」
そう思っていたら呼び止められた。
「任務にはも同行してもらう」
「え…」
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声が上がる。
「なんでこんなやつと一緒に行かなきゃならないんだよ!?」
「報告では数が多く、厄介だそうだ も一緒ならすぐ終わるだろう」
「だけど…!」
「は強い。足手まといにはならない」
「っ……」
と一緒だったら右腕は使えないし、そもそもなんか気まずい。
「分かったらさっさと行け。、期待してるぞ」
「は、はい!!」
大きいの返事に、あぁ結局一緒に行くのかと溜め息が出た。
「、怪我すんなよ」
森に入ってすぐ、俺はそうに言った。
「心配しないで 私だって結構強いんだから」
「だっ、誰がお前の心配なんかするか!お前に怪我させてクレドに小言言われるのが嫌なだけだ!」
の言葉に反射的に否定したけど、実は少し心配だったりする。
「ネロの後ろは私に任せてね!」
走りながらまたそんなことを言うからつい足を速めてしまった。
それから10分程走った頃、悪魔の気配を感じた。
「どうしたの?」
「…いや…」
「なに?」
はポカンとしていてどうやら悪魔に気付いていないらしい。
「少し此処にいろ。俺は先を見てくる」
「いたいけな女の子をこんなところに一人にするつもり?」
「どこにいたいけな女の子がいるんだよ」
そんなの言わなくても分かってるっての!!
「俺の後ろを守るんだろ?」
「う…」
さっきのことを言い出せばうっと言葉に詰まった。
「…分かった。でも早く戻ってきてね」
笑顔で見送られながら、俺はすぐ森の奥へ行った。
「多いな」
クレドの言った通り、うじゃうじゃいる悪魔。
「さて、戻るか」
もう悪魔は狩ってきたっていったら一体どんな顔をするのだろう。
―キンッ
森に響く金属音。
「…!」
そこには悪魔と対峙する。
「!!」
抱き寄せてもはぐったりとして目は閉じられたまま。
教団までの道が長く感じられた。
を医務室に担ぎ込んだ後、俺はクレドに報告に行った。
「…………ネロ?」
思わずびくっと身体が跳ねたけど、平静を装って返事をした。
「…あー、は、入っても良いか?」
「…うん」
カーテンをゆっくりと開けおそるおそる入ると、少し疲れが見えるがいた。
「…その…怪我大丈夫か?」
「…あ…うん…」
「そ、そうか…」
いつもの元気のない声音に調子が狂う。
「…これ、見舞い」
「あ、ありがと…」
フルーツカゴを机に置きながら自分でもこれは似合わないなと思う。
「…キリエが持ってけって言ったから持ってきただけだから」
独り言のように呟いてまた話題を考える。
「…あ、あの、その、ごめんな、俺間に合わなくて…痛かったろ…」
は俺が謝るのが不思議なのか、最初は首を傾げていた。
「身体に傷なんかつけて…困るよな…」
「…え…?」
「だ、だから、も一応嫁入り前の女だし、なんていうか…その…」
違う。
「……良いよ」
「……は?」
唐突な言葉に頭がついていかない。
「私が怪我したのは私のせい。ネロが悪いんじゃない だから気にしないで」
「だけど…!」
「ちょうど騎士も辞めようかと思ってたとこだし、結婚して辞めるのも良いかもね」
は笑顔だけどそれはいつまのそれじゃなく、まるで今にも泣き出しそうだった。
「…分かったら帰って」
「…………」
どうして素直になれないのだろう。
「…結婚って、相手いるのかよ?」
「…………」
「べ、別に騎士辞めなくても良いだろ?」
「…………」
「…っ…なんか言えよ!」
「…………」
何も言わないに泣き出しそうになる。
「……寂しいだろ…」
「……?」
口から出た言葉は本当に素直な気持ちだった。
「…がいなくなったら、からかうやついなくなるから寂しいだろ…」
「……ネロ…」
「一緒にいると結構楽しいし……お、俺、のこと嫌いじゃ…ない」
「……ホント…?」
「あ、あぁ…」
は驚いたように俺の顔を見つめる。
「……私も…ネロといたい」
「っ!?」
から出た言葉に思わず後退りした。
「な、なに恥ずかしいこと言ってんだ!!」
「だって私ネロが」
「あー!!あー!!お、俺、り、りんご剥いてくる!!!」
必死にの言葉を遮って、俺は扉を壊さんばかりの勢いで閉めて駆け出した。
「俺のこと、好き…?」
自分で言ってまた恥ずかしくなる。
「俺が好きだ…」
自覚したら余計心臓が跳ねた。
「……あ、りんご持ってきてない…」
きっと持っていくはずだったりんごを見て笑っているだろうを想像してまた恥ずかしくなった。
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