城塞都市、フォルトゥナ。
そこには人間を救った悪魔スパーダだけを崇め、他の悪魔を殲滅させるという教義を掲げた魔剣教団がある。
その教義を達成するため、騎士団というものも存在している。
そして俺も、その騎士団の一人だ。





清々しい朝日が差し込む中庭で、昼寝というよりは二度寝に近い惰眠を貪っていた。
この時間帯のこの場所は人も来なくて静かで過ごしやすい。
今日は大した任務も入ってなかったし、このまま一日を過ごそうか。
そんなことを考えていたらコツコツとブーツの音が聞こえてきた。
足音だけでわかるその人物に少し頬が緩む。
最近騎士になったばかりのソイツはなにかと俺に絡んでくる。
からかって邪険にしても離れていかない犬みたいなヤツ。
ウザいくらいだけど、一緒にいて…悪い気はしない。

がさがさと茂みの中から音がする。
少しからかってやるか。


「ネロ!!」


甲高く俺を呼ぶ声がする。
さて、寝たふり開始だ。


「ネロ〜?」


目を閉じていても顔をまじまじ覗かれているのがわかる。
もう少しこのままでいようかと思ったが、あまり寝顔を見られるのも嫌だ。


「おはよ、ネロ」

「………何か用?」


薄く目を開けて窺えば、そこには満面笑顔の
そんなに条件反射のように不機嫌な言葉が出た。
たまには素直にって思うけどどうしてもコイツにはつっけんどんな態度になってしまう。
は少し眉を下げると、用件を伝えた。

「クレドさんが呼んでるの。一緒に来て」

「…めんどくせぇ」


今日は一体どんな話を持ってきたかと思えばよりにもよってクレドの呼び出し。
あまりのつまらなさに背を向けた。


「来てくれないと私怒られるじゃない」


素早く移動して俺に向き合う
少し怒っているようにも見えるが、困った感じがなんとも犬だ。
俺は心底面倒くさそうに溜め息をついて立ち上がる。
途端、はまた笑顔になり跳ね上がるように立った。


「一緒に行こ?」

「……分かったよ」

「ありがと、ネロ」

「…さっさと行くぞ」


ありがと、の笑顔がなんだか照れ臭くてつい早足になる。
そんな俺についてこようと走る
…やっぱこいつ犬だ。

は優しい。
俺がいつも不機嫌に冷たくしててもにこにこして。
本当はもっと素直に接したいのに、いざ会うとつい冷たくしてしまう。
なんでこううまくいかないもんなんだ…


コンコン


「クレド、俺だ」

「入れ」


下らない考えを振り払うように執務室に入った。


「ネロ、、良く来てくれた」

「何の用だよ」


眉間に少し皺が寄ったクレドに手招きされ渡された書類を見る。


「ミティスの森で正体不明の生物が暴れていると報告があった」

「悪魔か」

「そうだ」


また始末書とか日々の態度について小言かと思っていただけに悪魔狩りは嬉しい。


「直ちに殲滅しろ」

「りょーかい」


コートを翻して扉に向かう。
久々にレッドクイーンをふかせる。


「待てネロ」

「何だよ?」


そう思っていたら呼び止められた。
出鼻を挫かれたようで気分が下がる。
そしてクレドの言葉にまた気分が下がった。


「任務にはも同行してもらう」

「え…」

「はぁっ!?」


思わず素っ頓狂な声が上がる。


「なんでこんなやつと一緒に行かなきゃならないんだよ!?」

「報告では数が多く、厄介だそうだ も一緒ならすぐ終わるだろう」

「だけど…!」

は強い。足手まといにはならない」

「っ……」


と一緒だったら右腕は使えないし、そもそもなんか気まずい。


「分かったらさっさと行け。、期待してるぞ」

「は、はい!!」


大きいの返事に、あぁ結局一緒に行くのかと溜め息が出た。










、怪我すんなよ」


森に入ってすぐ、俺はそうに言った。
するとは少し得意気に胸を張る。


「心配しないで 私だって結構強いんだから」

「だっ、誰がお前の心配なんかするか!お前に怪我させてクレドに小言言われるのが嫌なだけだ!」


の言葉に反射的に否定したけど、実は少し心配だったりする。
絶対言わないけど。
というか言えない。


「ネロの後ろは私に任せてね!」


走りながらまたそんなことを言うからつい足を速めてしまった。

それから10分程走った頃、悪魔の気配を感じた。


「どうしたの?」

「…いや…

「なに?」


はポカンとしていてどうやら悪魔に気付いていないらしい。
チャンスだ。


「少し此処にいろ。俺は先を見てくる」

「いたいけな女の子をこんなところに一人にするつもり?」

「どこにいたいけな女の子がいるんだよ」


そんなの言わなくても分かってるっての!!
これ以上意識させんなよ…


「俺の後ろを守るんだろ?」

「う…」


さっきのことを言い出せばうっと言葉に詰まった
自分の言ったことは守るやつだからこれなら従うだろう。


「…分かった。でも早く戻ってきてね」
「あぁ」


笑顔で見送られながら、俺はすぐ森の奥へ行った。





「多いな」


クレドの言った通り、うじゃうじゃいる悪魔。
を連れてこなくて正解だった。
右腕を唸らせ、一気に蹴散らす。
さっさとのとこに戻らなくちゃな。
レッドクイーンに付いた悪魔の体液の払い、背に収める。


「さて、戻るか」


もう悪魔は狩ってきたっていったら一体どんな顔をするのだろう。
怒るだろうか。
またそれでからかってやろうか。
考えながら来た道を戻る。
だけど、そんなことをしていないで早く戻れば良かったんだ。

―キンッ

森に響く金属音。
その音に嫌な予感がして走り出す。


…!」


そこには悪魔と対峙する
斬られたのか、白い団服が赤く染まっている。
悪魔の攻撃をなんとか避ける様子からもう限界だと分かった。
膝をついたの首を狩ろうとする悪魔をギリギリで狩り、他も蹴散らした。


!!」


抱き寄せてもはぐったりとして目は閉じられたまま。
もしかしたらと、最悪の事態が頭をよぎった。
込み上げる悔しさと怒りを押し込めて、俺はを抱えて走り出した。
こんなはずじゃなかった。
行く手に悪魔の気配を感じたからが怪我しないように狩ろうと先行した。
それが結果的にに怪我させることになるなん思わなかった。
俺のせいで、は…

教団までの道が長く感じられた。










を医務室に担ぎ込んだ後、俺はクレドに報告に行った。
クレドは俺を責めるでもなく、今は傍にいてやれと部屋を出された。
キリエから命に別状はないと聞いて本当に安心した。
お見舞いにとフルーツカゴを持たされ医務室に向かった。
医者は出払っているらしく、中には誰もいない。
のベッドのカーテンは閉められていて入るのに躊躇った。
しばらくそうしていると、カーテンの向こうから声がした。


「…………ネロ?」


思わずびくっと身体が跳ねたけど、平静を装って返事をした。


「…あー、は、入っても良いか?」

「…うん」


カーテンをゆっくりと開けおそるおそる入ると、少し疲れが見えるがいた。


「…その…怪我大丈夫か?」

「…あ…うん…」

「そ、そうか…」


いつもの元気のない声音に調子が狂う。
何を話したら良いかとあれこれ考えたが適当な話題は浮かばなかった。
そこでフルーツカゴを思い出した。


「…これ、見舞い」

「あ、ありがと…」


フルーツカゴを机に置きながら自分でもこれは似合わないなと思う。


「…キリエが持ってけって言ったから持ってきただけだから」


独り言のように呟いてまた話題を考える。
…ここはやっぱり、謝らないとな。

「…あ、あの、その、ごめんな、俺間に合わなくて…痛かったろ…」


は俺が謝るのが不思議なのか、最初は首を傾げていた。
でもすぐにいつものように微笑んだ。


「身体に傷なんかつけて…困るよな…」

「…え…?」

「だ、だから、も一応嫁入り前の女だし、なんていうか…その…」


違う。
こんなこと言いたいんじゃない。
守れなくてごめんって。
これからは俺がしっかり守るからって言いたいのに。
を見ると、さっさまでの笑顔はどこへやら、泣きそうな顔になっていた。


「……良いよ」

「……は?」


唐突な言葉に頭がついていかない。


「私が怪我したのは私のせい。ネロが悪いんじゃない だから気にしないで」

「だけど…!」

「ちょうど騎士も辞めようかと思ってたとこだし、結婚して辞めるのも良いかもね」


は笑顔だけどそれはいつまのそれじゃなく、まるで今にも泣き出しそうだった。
しばらくしてはベッドに潜り込んで俺に背を向けた。


「…分かったら帰って」

「…………」


どうして素直になれないのだろう。
俺のせいでは怪我して、そして俺から離れていく。
そんなの嫌だ。


「…結婚って、相手いるのかよ?」

「…………」

「べ、別に騎士辞めなくても良いだろ?」

「…………」

「…っ…なんか言えよ!」

「…………」


何も言わないに泣き出しそうになる。
もうなりふりかまっていられるか。


「……寂しいだろ…」

「……?」


口から出た言葉は本当に素直な気持ちだった。
ゆっくり、確認するように話す。


「…がいなくなったら、からかうやついなくなるから寂しいだろ…」

「……ネロ…」

「一緒にいると結構楽しいし……お、俺、のこと嫌いじゃ…ない」

「……ホント…?」

「あ、あぁ…」


は驚いたように俺の顔を見つめる。
…なんか、恥ずかしい。


「……私も…ネロといたい」

「っ!?」


から出た言葉に思わず後退りした。


「な、なに恥ずかしいこと言ってんだ!!」

「だって私ネロが」

「あー!!あー!!お、俺、り、りんご剥いてくる!!!」


必死にの言葉を遮って、俺は扉を壊さんばかりの勢いで閉めて駆け出した。
医務室からだいぶ離れたところで壁にもたれ、そのままずるずるとしゃがみこむ。
はさっき何を言おうとした?
もしかして…


「俺のこと、好き…?」


自分で言ってまた恥ずかしくなる。
心臓は飛び出しそうなくらいバクバクいってうるさい。
まいった、これは…


「俺が好きだ…」


自覚したら余計心臓が跳ねた。
あぁ、これからどうしよう。
一体どんな顔して会えば良いんだ。


「……あ、りんご持ってきてない…」


きっと持っていくはずだったりんごを見て笑っているだろうを想像してまた恥ずかしくなった。










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まさかの二本立て!
サービス良すぎですよぅ(*´д`*)
ネロのデレが更に強調されるようで、もう萌えまくりです!
本当に幸せな夢をありがとうございました!!




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