「シノン!!危ない!!!」
「っ!!!!」
甲高い叫び声の直後突き飛ばされ、振り向いた先には大きな火柱。
「ッチ!この野郎!!!」
背後でいやらしく笑う炎魔道士へと矢を放つ。
「!!てめぇ、魔防低いくせに何やってんだ!!!」
すでに炎が跡形もなく消え、焼け焦げた地面の中心に倒れる少女を抱き上げると、間髪入れず怒鳴りつける。
「怪我人・・向かって怒鳴らない・・でよ・・・」
「うるせぇ!黙ってろ!!!」
顰められた少女の形の良い眉は、火傷の痛みのせいなのか怒鳴られたことによってなのかわからないが、嫌でも目に付く腕や頬の火傷がとても痛々しかった。
大した戦いじゃない。
油断した結果がこれだ・・・。
自分自身を殴りたくなる衝動を抑え、シノンは部隊の後方へと必死に走った。
「キルロイ!!」
隊の後方で回復に当たっていたキルロイは、突然呼ばれた自身の名前に振り向くと、瞬時に状況を理解し杖に意識を集中しだす。
遠くで、勝利の叫びが聞こえる。
戻ってきた心配性の仲間達が見たら何て言うだろうか。
「あー・・・痛たた・・・。やっちゃったなぁ。」
村から割り当てられた小屋の簡素なベッドの上では目を覚ますなり、術だけでは治りきらなかった手の甲の火傷を押さえた。
依頼が成功した祝いなのだろう。
「アイク隊長!」
一際騒がしい一角で、豪快に肉に食らいつく隊長を見つけ声を掛ける。
「おぉ、。もう大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。ご心配おかけしてすみませんでした。それより、隊長。ミストかキルロイ見ませんでした?」
「それよりってお前・・・。あの二人なら料理が足りねぇって、村長の家の厨房にいるはずだぞ。」
ハァと盛大に溜息を吐くと、ほれ、あそこのでかい家だ。と骨付き肉を指す。
「ありがと、隊長!」
「あぁ。それと、ちゃんとシノンにも礼言っとくんだぞ!」
その言葉に片手を上げて答えると、は指し示された家へと駆け出した。
「お邪魔します。」
コンコンと2回のノックの後、木の扉をくぐると奥から良い匂いが漂ってくる。
「ミスト、キルロイ。これありがとう。ほんとに助かったよ。」
包帯の巻かれた手を振ると、2人揃って頭に「?」を浮かべた。
おたまを片手にキルロイは、
「確かに、ライブはかけましたが包帯までは気が回りませんでした。ミストですか?」
と。
「あれ?じゃあ誰だろ。」
うーんと3人で首を捻るが、思い当たる人物は他に居ない。
「ま、いっか。そうだ。私シノンにもお礼言ってこなきゃ!」
ほんとにありがとう!と手を振り、2人に背を向ける。
「おっかしいなぁ・・・どこ行ったんだろ。」
騒ぎの中心に居るだろうとの予想は外れ、は村のどこにも見当たらない目的の人物を探し、村外れの森を彷徨っていた。
「おーい、シノン・・・っと・・・。」
深い緑の瞳は固く閉じられ、すぅすぅと穏やかな寝息に反してその眉間には皺が寄っていた。
「寝てる時くらい、もうちょっと穏やかな顔できないものかなぁ。」
クスリと笑って指先でグリグリとほぐすと余計に深く刻まれる皺。
「てめ・・何してやがる。」
「あははー・・・穏やかな眠りのお手伝い・・・?」
寝起き特有のドスの利いた低い声は何度聞いても恐いもので。
「ったく・・・戦闘の邪魔の次は睡眠の邪魔か?」
「っ!!あれは、邪魔したんじゃないわよ!!あのままじゃシノンが・・・危なかった、から・・・。」
シノンの嫌味な一言に一瞬目の前がカッと熱くなるが、もしも自分が突き飛ばさなければと想像して、ぞくりと背中が寒くなる。
「だったら・・・お前が危ない目に遭うのはいいってのか?」
頭上から掛けられた声に顔を上げると、ドキリと心臓が痛いくらいに跳ね上がる。
眉間に深い皺が寄せられたシノンの顔。
「シノ・・ン・・・?」
「俺が危なくなったら・・・お前が代わりに傷付くのか?」
「シ・・・シノ・・」
「ふざけんな!!!」
ビクリと体が跳ねる。
「ごめん、なさい・・・。」
「ごめんじゃねぇ!全身火に包まれたお前を見た時・・・俺が死ぬかと思った・・・。」
「え・・・?」
「ちっせぇ体のくせに、全身火傷だらけになって・・・俺がどれだけ心配したと思ってやがんだ。」
ぎゅぅっと体に感じる圧迫感と温かさにはそっと目を閉じる。
「顔にまで火傷しやがって・・・治らなかったらどうするつもりだったんだ。」
シノンは今は綺麗に傷の癒えたの白い頬に手を添えると、深く溜息を吐く。
「うーん・・・その時はシノンが責任取ってくれるでしょ?」
「馬鹿か、寝言は寝てから言え。」
「酷い!寝言なんかじゃ・・・っ!!」
急に重ねられた唇。
「んぅ・・・ゃ・・・」
ぬるりと生暖かい舌が差し込まれ、乱暴に重ねるだけだったキスはいつの間にか口内を味わうように動き回るものに変わっていた。
「・・・っ、はぁ」
お互いの唇を繋ぐ銀糸がぷつりと切れようやく離れると、は酸素を求めて胸を上下させた。
「傷なんか残させねぇ。」
真っ直ぐと見詰め呟く、いつになく真剣な声に、は息を詰める。
「シノン・・・心配かけて、本当にごめん。」
素直にそう謝ると、ゆっくりと顔が近づき再度唇が重ねられる。
キミが傷付くくらいなら...
END
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