くぁ・・・と大きく欠伸が出て、じわりと両の眼に涙が浮かんだ。
「うぁー、疲れた・・・っいたぁ・・・痛い痛い痛い!!あぁー・・・」
情けない声を上げて凝り固まってしまった体をほぐすように伸びをすると、私の涙でぼやけた視界に大きな満月が飛び込んできた。
電気ひとつ点いていない室内はパソコンの画面が発する光のみでぼんやりと薄暗く、集中している時には気づかなかったが、白がメインのそれは今の私の眼に非常に毒である。
「っいたた・・・」
いよいよ情けなさも最高潮を迎えようとした時だった。
「!でけぇ音が聞こえたが大丈夫か!?って・・・何だこの部屋、真っ暗じゃねぇか!!」
パチンッ!
「はぁ・・・。ったく、うちのお姫様はこんなとこに座り込んで何やってんだ?」
溜息と、それに見合った声が頭上から降ってきた。
「びっくりしたぁ・・・ダンテ!わたしね、わたし・・・っ!」
「それはこっちの台詞だ。いいから落ち着け、とにかく落ち着け。」
「落ち着いてられないわよ!わたし時間越えちゃったみたい!時空移動?あれ?違うな。ほら、あれよ。昔映画で観たあれみたいなやつ!なんだっけ・・・あー、ここまで出てるんだけど。タイム・・・えっと・・・タイムー・・・」
「タイムスリップか?それともタイムワープ?」
おしい!非常におしい気がする!!
「タイムリープ・・・。そう!タイムリープ!!」
ようやく出てきた自信満々の答えに正解のベルは鳴り響かず、その代わりにダンテの盛大な溜息が降ってきた。
「OK...OK baby...お前の言いたいことはわかった。痛いほど伝わってきた。」
「さすがダンテ!わたしのことを理解してくれるのは・・・って!何!?ちょっと、ダンテ!えっ!?何!!?」
ふわりと体が浮いて、気付けば真上にあったはずのダンテの顔が私の真下に移動していて。
「もうっ!そんなに笑うことないじゃない!私だっていきなり抱き上げられたら焦りもするわよ!!」
どさくさに紛れて胸元に顔を埋めようとするダンテの髪を思いっきり引っ張った私は、眉間に皺を寄せてそう怒鳴ってやった。
「―――〜っ!!もーいいもん!」
「ック!ハハッ!!、違う違う、そっちじゃねぇよ。」
笑いすぎて薄っすらと涙を浮かべた青い瞳が、拗ねて逸らした私の顔をじぃっと覗き込む。
「っきゃ!!」
上半身がぐわんと振り回され、飛び出すはずだった文句の言葉は悲鳴に摩り替わってしまう。
「ちょっと!ダンテッ!!」
「Shh−・・・イイ子だ、。よーく聞け。」
「・・・っ!な、なに・・・?」
耳元を擽るダンテの低い声に、喉が引き攣って吃音ってしまう。
「タイムリープをしてしまったお姫様に、俺が特別にイイコトを教えてやる。」
囁くついでにフッと耳に息を吹きかけられ、思わず身を固くしてしまった私の反応を面白がるかのように、ダンテはまた低く喉を鳴らして笑った。
「どうした、。お前に必要なことだ。知りたくねぇのか?」
「―――っ!!な・・・にを・・・っ」
飛び出そうになる声を押し殺してようやくその一言だけ言うと、ダンテは満足したかのように私の首筋から顔を上げた。
「必要なことって・・・なに?」
聞きたいような・・・聞きたくないような・・・
「寝ろ。」
「・・・は?」
我ながら情けの無い、素っ頓狂な声が口から漏れた。
「今お前に必要なのは睡眠だ、睡眠。ったく、目の下にこんなでけぇクマ作りやがって。仕事するからってお前が部屋に篭って何時間経ったと思ってんだ?ざっと半日だぜ?半日。」
半日・・・?一日が24時間だから、えーっと・・・
「じゅ、じゅうにじかん・・・?」
私の言葉にダンテはこくりと頷く。
「イイ子だ、darling.」
囁くような低い声がさらに・・・
「でも、仕事・・・まだ、残って・・・」
搾り出した声がぼわんぼわんと低く響いて、まるで自分の声じゃないよう。
「わかったから。心配するな、。今は眠ることだけを考えろ。」
温かいものが優しく私の目元を覆う。
すぅすぅと規則正しい息遣い聞こえ始め、ダンテはふっと頬を緩めた。
「Good night...A sweet dream...」
微かな笑みを浮かべたの口元にちゅっと小さなリップノイズを響かせて、ダンテはその小さな体を優しく抱き締めた。
―――どうか目覚めた彼女がまたもや、"時間移動した!"・・・なんて言いませんように。
END
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