『 ――――  ・・・♪』



ふと聴こえた旋律にバージルは小さな文字を追っていた視線を上げた。

微かに聴こえる歌声は異国の言葉で紡がれておりその意味は理解できなかったが、心地良いそのメロディに読みかけの分厚い本を置いた。
カタリと静かに立ち上がり、歌声の主を探す。

天井まで届く大きな扉を開け広い廊下へと出ると、彼女に割り当てた部屋の扉が僅かに開いていた。
光は無く漏れるのは小さな歌声のみ。
そっと覗き込むと月明かりに照らされた彼女の横顔が目に入った。
長い漆黒の髪は今はひとつに纏められ、細く白い首筋が覗いている。
バージルのことを真っ直ぐに見つめる黒曜石の瞳は今は閉じられ、その色を隠していた。


初めて彼女に出会ったのは館の庭だった。
深夜、誰も居ないはずの庭の一角ですやすやと平和な寝息を立て眠る彼女が居た。
声を掛ければ、うっすらと瞼を上げ顔を覗かせたその瞳は月に照らされ妖しい光を放っていた。

魅了される・・・とはこういうことを言うのだろうか。

バージルは無言で彼女を抱き上げ館へと招き入れた。
彼女から発せられた言葉は異国の言葉でバージルには何を言っているのかわからなかったが、驚きと不安の表情を持っていることだけは理解できた。








カタ・・・ギィ・・・・

そっと触れると扉が開く。
振り向く彼女はバージルの姿を見つけると柔らかく微笑んだ。

「すまない、驚かせたか?」

「いいえ。いらっしゃるのはわかってましたから。」

くすくすとおかしそうに笑う彼女はそっと立ち上がるとバージルの方へと歩み寄ると、細い指先でバージルの頬を撫で、「お邪魔してしまいましたか?」と呟く。

「いや、心地よい響きだった。」

頬を滑る指先を掬い上げるとその指先に口付けを落としてやる。

「続きを、。」
そう促すとは静かに歌い始めた。

バージルは近くにあった椅子に腰をかけ静かに目を閉じ聴き入る。
静かな夜全てを包み込むようなの歌声に、バージルはふと歌詞の意味を知りたくなった。
そっと立ち上がると窓辺に立つの背後にまわり、その腰に手を回した。
さして驚く様子も見せずは腰に回った手にその手を重ね、なおも歌い続ける。

「歌詞の意味を・・・」

「え?」

「その歌の歌詞の意味を教えてくれ。」

バージルの問いかけに歌うことを止め、は窓に背を向けバージルの胸元へ頭を押し付けた。

「御呪いです。」
のくぐもった声が聞こえる。

「呪い?」
意外な返答にバージルは眉を顰めた。

「はい。『アナタとの時間が永遠に続きますように。離れ離れになることがあろうとも私の心はアナタのものです。』そういう意味がこの歌には込められているんです。」

「離れ離れになどなるものか。」

バージルの言葉には驚きの表情で顔を上げる。

「俺は一生お前を手放したりなどしない。」

見開いたその瞳に唇を寄せると軽く閉じられる。
瞼に・・・額に・・・頬に・・・口付けを降らせ、最後に小さな唇に己のそれを重ね合わせた。
薄く開いた唇に舌を滑り込ませ、口内を味わうように舌を絡ませ合い離すと銀の糸がぷつりと弾けた。

「俺の心も・・・、お前のものだ。」

未だ息の整わぬの耳に唇を寄せそう囁き、きつく抱きしめる。

はバージルの背に回した腕に力を込め、肯定の意を示した。









END






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