「バージルの馬鹿!!大っ嫌いなんだから!!」
バタンッ!と蝶番が外れてしまうのではと思わず心配してしまうほどの勢いでドアが開けられた。
―――見て見て、バージル!似合う?
ノックもせず部屋へと押しかけてきた彼女は、男の姿を見つけるなり嬉しそうにその眼前でまるでバレリーナのようにくるりと回る。
―――似合わん。
何故あんなことを言ったのだろうか。
それはきっとあの鮮やかな赤のせい・・・。
―――すぐに別のものに着替えることだな。目の毒だ。
―――大体、なんだその色は。まったく・・・趣味を疑う。
ふと視線を彼女に戻した時には遅かった。
そして・・・冒頭の彼女の台詞。
コックを捻ると冷たい水がシャワーヘッドから吐き出される。
向かった先は少し離れた街に建つ大きなショッピングモール。
「・・・入るぞ。」
軽いノックの後、目の前の扉を軽く押すとキィっと応えるように開いた。
「・・・すまなかった。」
「ううん、もういいの。」
ゆっくりとした動作では起き上がると、首を左右に振りそっとバージルへと視線を向けた。
「本当は・・・よく似合っていた。」
その一言だけでぱっと明るくなる彼女の表情に今度は自然と笑みが零れてしまう。
「だが、どうにも気に入らなかった。お前があいつと同じ色を纏っていることが。」
あいつ?と首を傾げるの頭をそっと撫で、「愚弟だ。」と呟くように答えてやると納得したのか小さく声を漏らした。
「本当にすまなかった。」
ふるふると首を振りながら微笑むの額へと唇と落とすと、サイドテーブルに置き去りにされたままの箱へとそっと手を伸ばす。
「・・・、これを。」
そっと体を離し空いた彼女の両手に乗せてやると、軽く首をかしげこちらを見上げる。
「ちょ・・・ちょっと待ってて!!」
はワンピースをぎゅっと胸元で抱きしめると、そう叫ぶように言い慌てて部屋を飛び出してしまった。
どのくらい待っただろうか。
「、出てきてくれ。」
扉の背後に隠れるように立つの気配へとバージルが声を掛けると、おずおずとした様子で顔だけを覗かせる。
「に・・・似合うかな?」
そっと扉の影から出てこちらへとゆっくり歩いてくるに不覚にも言葉を失ってしまった。
白い肌に栄える深いブルー。
何も言わないバージルに不安の感じたのかは慌てて言葉を紡いだ。
「大人っぽくて私には似合わないよね!ご、ごめん!期待に応えれ・・・っ!」
その言葉は最後まで言い切ることなく、代わりにくぐもった声が部屋に響いた。
「想像以上だ。」
「え・・・?っ!」
聞こえるか聞こえないか・・・ギリギリの呟きに顔を上げれば、今までに見たことのない、穏やかに微笑むバージルの表情に言葉が詰まる。
「綺麗だ・・・よく、似合っている。」
離れる瞬間も縫い付けられたかのように絡まりあう青と黒。
愛しい彼からの贈り物を身に纏い、真っ直ぐな視線を向けられ、贈られたのは一番望んでいた言葉で。
はバージルの肩へそっと頭を乗せると「ありがと・・・」と、ツンと痛む喉から精一杯の感謝を述べた。
「ところで、。好きな相手に服を贈るのはどういう意味か知っているか?」
「え・・・?えー・・・っと。バージル・・・?」
反転する視界と背後で聞こえたスプリングの軋む音。
「バ・・・バージルの・・・バージルの馬鹿!!!」
全てを理解した後、の怒鳴り声がまたもや家中に響き渡った。
END
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