「飲むんだ、。」
「やだ・・・絶対にいや・・・」
差し出された腕を見てゴクリと喉が鳴る。
・・・ぽたり
また一滴。
かさかさに乾いた唇はひび割れ、舌で舐めるとピリッと痛んだ。
でも・・・
―――同じ過ちは犯さない。
ぎゅっと目を瞑り、荒くなる息を整える。
≪ どうして・・・・・・ ≫
そう呟きながら息絶えた彼の、「どうして」という言葉が頭の中に響き続ける。
「う・・うぇ・・・」
せり上がる嘔吐の感覚に思わず口を手で覆う。
「!」
崩れ落ちそうになった身体を支えてくれたのは、先ほどまで拒み続けたあの腕だった。
「だめ・・・ダンテ。だめなの・・・もう、あんなの耐えられない。」
息絶えた愛しい人
首筋から流れ続ける赤い血
見開いた目は私を見続け・・・
どうして・・・と未だ問いかけ続ける。
ぼたぼたと流れ続ける涙がダンテの腕を濡らし、赤い血と交じり合って地面へと吸い込まれた。
「・・・」
ダンテが小さな声で私を呼ぶ。
「俺は・・・お前を死なせねぇ。黙って見てるなんて出来る訳ねぇだろ。」
「でも!!でも・・・今度は・・・ダンテ、あなたが・・・。」
フッと瞼に焼きついた男の姿がダンテと摩り替わる。
―――そうなる前に・・・餓えて死んでしまえればいい。
そう思い、ダンテの前から消えてしまったというのに。
「大丈夫だ。」
ふっと耳元で低い声が響いた。
「っ・・・んっ・・・」
重ねられた唇からは甘い甘い・・・血の味。
「っや!!」
顔を逸らし逃げようとするが、頭を掴まれ逸らすことは叶わなかった。
「大丈夫だ、。」
そう優しく微笑んだダンテは、自分の唇に歯を立て噛み切ると傷口が治りきらないうちに、再び私に口付ける。
ダンテはそのまま私の髪へと指を差し入れ、何度も梳くように撫でられ気持ちよさに目を閉じた瞬間。
「!!!」
ぐっと引かれ導かれた先は、ダンテの太い首筋だった。
―――もう・・・だめ・・・
その濃厚な甘い香りに誘われるように、真っ赤な舌をゆっくりと這わせる。
「っ・・・」
微かにダンテが反応を示すのがわかった。
―――もっと・・・欲しい・・・
「ダンテ・・・我慢・・できない・・・」
―――もっと頂戴?
吐息とともに吐き出された言葉は彼の耳に届いていたようで。
「イイ子だ。好きなだけ飲め。」
「ごめ・・なさい・・・。」
ぷつりと鋭い牙が皮膚を破る。
そうして気が付いた時には・・・
「ぃ・・・やぁ!!」
飛び起きてまず目に入ってきたのは、見覚えのある風景。
「なんで・・・?」
「そりゃ、俺が運んだからな。」
返ってくるはずの無い、聞き覚えのある声に勢いよく振り向く。
「どうして・・・?」
だった。
「どうしてって・・・俺があのくらいで死ぬとでも思ったのか?」
やれやれ、と軽い調子で答えるダンテが徐々にぼやけ始める。
「なぁ、。」
すいっと目元へと長い指が這わされ、一滴攫ってゆく。
「俺はあれくらいじゃ死なねぇ。お前が死んでいくのも黙って見てるつもりもねぇ。」
頬を熱い涙が幾筋も伝い落ちて、それを掬うように大きな手のひらが私の頬を包み込んだ。
「。もう、俺の前から居なくならないでくれ。」
真剣な眼差しが胸に突き刺さる。
「ダンテ・・・でも」
「『でも』はナシだ、darling」
「だって・・・」
「『だって』も。俺はYesしか聞きたくない。」
強引な・・・でも、優しい微笑みと声色にあの悪夢がゆっくりと溶かされ消えてゆく。
「私は・・・いつかあなたを殺してしまうかもしれない・・・。」
不安を口にしてみる。
「そんな日は来ないさ。」
―――それに、に殺されるなら本望だ。
物騒なことを呟いて、もうこれ以上何も喋るなとでも言うように強く抱きしめられる。
「答えはYesしか聞きたくないが、。どうなんだ?」
そう、耳元で囁かれたら・・・
「っ・・・もう・・・消えたりしない。ダンテの傍に居る。Yesよ・・・ダンテ。」
暗い過去は消し去ってしまおう。
「イイ子だ、。」
END
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