Beneath the Apple blossoms
03.お金を稼ごう
お金を稼ぐ方法としてが提案したのはギガントモンスターの討伐だった。
「そんな相手を今から倒しに行くのか?」
大丈夫なのかと問いたげに言うルドガーに「大丈夫だよ」とが答える。何の根拠があるんだと問うより早く振り返って微笑むに、ルドガーは少し嫌な予感を感じつつもゆっくりと開く彼女の唇を見つめた。
「チェリーズパイクは見た目ほどパワーがあるわけじゃないから。さすがに一人じゃ無理があったけど、この人数なら問題ないと思うよ」
ひくりとルドガーが口を引き攣らせたが、その先を聞くのが恐いのかそのまま口を噤んだ。ニコニコと微笑む少女のような姿に恐怖を感じてしまう。「念のため、あと一人誰かいればいいんだけど」と独りごちる彼女の横顔を見下ろしながら、アルヴィンが呆れたように溜息を吐いた。
「お前ね……、結局一人で行ったのかよ」
呆れた目を向けてくるアルヴィンに、誤魔化すような空笑いを浮かべただったが、クッとジャケットの裾を引かれる感触に笑みを引いて視線を下げた。少々気難しげな表情を浮かべたエルがを見上げている。
「ねえねえ、。そのチェリーなんとかってのどこにいるの?」
エルの問いかけに答えながらGHSの画面に視線を落とす。ギガントモンスター出現ポイントは、過去に挑んだ時と全く変わらない位置を指し示していて、「うん、変わってないね」とが誰に言うでもなく頷いた。
「さて、それじゃ……」
商業区から住居区へ戻る途中の坂の上から聞こえた大きな声に、呼ばれたを筆頭に全員が顔を上げた。「あっ」とルドガーが声を零し、彼の足元にいたルルが「ナー?」と首を傾げるようにして鳴くと、さらにその隣に立っていたエルが「レイアだ!!」と、こちらへ駆け出そうとするレイアを指差して大きな声を出した。
「あ! レイア、ひさしぶっ……っと、わっ!!」
飛びつかんばかりの勢いで抱きつかれ、支えきれずに倒れそうになるの肩をアルヴィンが支える。
「わー! 、ひさしぶり! 元気だった? うん、元気そうだね!!」
そんなことより、で片付けられてしまったアルヴィンが「へいへい」と溜息混じりに呟いて、とレイアから一歩距離を取った。
「捕まっちまったな、レイア。ま、諦めろ」
意味ありげなアルヴィンの言葉に何かを察したのか、レイアの口角がひくりと動く。察してくれてありがとうとばかりに笑みを深めるに対し、レイアは「もしかしてタイミング最悪?」と肩を落とした。
「のお願いだから聞くけど……これでも私仕事中なんだからね」
商業区から街道へ出てすぐ、隣を歩くレイアが不服そうに呟く。仕事中なのに私を探しに来たのは誰だとは思うが、口には出さなかった。
「ゲンテイチーズケーキ?? ルドガー。“ゲンテイ”ってなに?」
“ゲンテイ”という何かが使われているチーズケーキなのかと首をかしげるエルにそう答えたルドガーだったが、確かあのチーズケーキは一日二十個限定ではなかったかと思い出す。さらにはそれを目当てに開店前から出来る行列を思い浮かべ、乾いた笑いを零した。買おうと思ったら何時から並べばいいのやら、と。そんなお人好しな心配をするルドガーを知ってか知らずか、当のはただカラカラと笑うのみ。
「ん? ジュードからだ。っと、はいはい、わかってますよーだ」
メールの内容はわからないが、何か小言のようなことが送られてきたのだろう。文面を読んだレイアはやや不機嫌そうにむくれながらメールの返信を打ち始める。GHSのボタンを押すレイアの指はとても早く、は思わず「ほえー」と情けない声を上げてしまった。
「あんな文面をあの早さで打つんだもんな。バケモンかあいつは」
アルヴィンの言う“あんな文面”に心当たりがあったのだろう。が乾いた笑いを零すと、メールの送信が終わったであろうレイアが「ん? なになに、どうしたの?」と駆け寄ってきた。そんなレイアの額を指先で小突いたアルヴィンが「あのさ、レイア。お前がくれるメールだけどさ……」と、どこか言いづらそうに口を開いた。
「うん? なに、改まって」
きょとりとするレイアの隣を歩くルドガーが、何事だと言いたげな視線をへ送った。今日はどれだけ空笑いをすればいいのだろうと思いながら、が「はは……」とため息まじりの笑い声を零すが、その声はレイアの反論の声に掻き消されてしまう。
「あのカエルだって、なんか情けない目の感じがアルヴィンを思い出すっていうか」
なんとか言ってやれと言われても、と言葉を濁すだったが、ふと自分が送るメールの文面を思い浮かべ、そしておや? と首を傾げた。絵文字どころか、レイアやエリーゼのように写真を送ったことなど皆無なことに気づく。
「え? えっと、どうだろうな。人によるんじゃないか……」
当たり障りのない彼の回答に、はさらに質問を重ねる。
「人並みに、かな」
そっか、と呟いたはGHSを取り出すと、以前にレイアから届いたメールを開いた。暗号かと見紛うばかりの文面を見て、「うーむ」と眉根を寄せる。ぱたんとGHSを閉じた瞬間、レイアとアルヴィンの言い合いに決着がついたようだ。
「……あう……気をつけます……」
項垂れるレイアと満足そうに頷くアルヴィンを目の端に入れたが、「あ」と声を上げた。やいのやいのと言い合いながらも足は止めずにいた一行が、が向ける視線の先へ目をやる。
「おっきなお花だー」
エルが言うように、視線の先にはピンク色の花のように見える何かがゆうらりと揺れていた。緩慢に揺れるそれを見て、ルドガーが「……もしかして」と口角を引きつらせた。
「そ、あれがチェリーズパイクだよ」
平然と頷くに対し、信じられないとばかりにルドガーが喉を鳴らした。
「な、なあ……」
何事でもないように腰に差した剣を抜くに、間違いじゃないんだとルドガーはがくりと肩を落とした。
「ま、諦めろよ。ルドガー」
つい今朝聞いたばかりの台詞に目眩を覚えるが、悠長なことをしている場合でないようだ。
「来るよ、ルドガー!!」
棍を構えながらレイアが叫ぶ。
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