アルヴィン君は馬鹿でアホで。つまりバホーである。
「もうやめなよ」
って言ったら、アルヴィン君。
「嬢ってば、何言ってんの?」
っていつもみたいに笑うから。
「だーかーらー!! その一人でなんでもかんでも抱え込む癖をやめなって言ってんのよ!! 周りを巻き込まないように? 私を傷付けないように? ふざけんじゃないわよ!! それでアルヴィン君が傷付いてちゃ意味ないでしょ!! 全く、どうせ自分がどんな表情してるかも気付いてないんでしょ!? そんな顔見せられて私が平気でいられるとでも思ってんの!? 馬鹿に、馬鹿にしないでよ……このドあほ……略してドバホよ。バホーより上よ上」
一気に捲くし立てるつもりが途中で酸欠になりそうで、語尾にいくに従って力がなくなっていく。
「」
少し困ったような低い声が頭上で響く。だけど顔を上げてなんてやるもんですか。またどうせ変な顔で笑ってるんでしょ?
「アルヴィン君は私達のこと嫌い?」
そう聞いた瞬間、空気が震えた。いや、実際震えていたのは私の声か。
「そ、んなこと……」
ぐっと息が詰まる気配がした。
「私は好き。アルヴィン君が好き。そのどうしようも無いとこも全部ひっくるめてあなたが好きなの。だから、」
あなたが傷付くと私も傷付くんだよ。
そんな私の言葉は、固いコートと分厚い胸板に吸い込まれて空気を震わすことは無かった。
「アルヴィン君?ねえ、痛いよ。」
少しだけ身を捩ってみたが無駄な抵抗に終わってしまった。それどころか、締め付けがきつくなったようにも感じる。
ぽつり
ぽつり
頭に雫が降ってきた。じんわりとぬるいそれは、私の髪に吸い込まれて姿を消してしまう。
ぽつり
またひとつ今度はふっとあげた私の頬に落ちる。
「なんでっ……泣かな、いで、よっ……」
ぼろぼろと零れる涙が恥ずかしくてまた固いのコートに顔を埋めると、頭の天辺がふわっとあったかくなった。ちゅって音をたてて離れたぬくもりが少し寂しくて、涙でべたべたなのも気にせず私はもう一度顔を上げる。熱いくらいに火照った大きな手のひらが私の両頬を包み込んだ。
「なんつー顔してんだか」
ふふって私が笑うとへにゃって聞こえそうなくらい、アルヴィン君の顔が優しく歪む。今度こそ解放された両腕を持ち上げて、私と同じくらい涙でべたべたの両頬を包み込んでやった。こつんと軽くおでこを引っ付け合う。
「好きよ。アルヴィン君」
その言葉の続きを飲み込むように、お互いの唇が重なった。
臆病クレマチス
(強くて脆い貴方が心から愛しいのです。)
END
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