「Trick or Treat?”」
全くいい歳した大人が何やってんだと、呆れた目を向けてやる。大体もう日を跨ごうかって時間ギリギリだ。目の前でニヤニヤと笑うアルヴィンに向かって、ぽいっとキャンディーを適当にひとつ投げてやると、不満そうな声が上がった。
「おいおい、味気ねえんじゃね? もっとこうパーっとテンション上げていこうぜ!」
似合うも何も似合いすぎて恐いくらいだ……。どこで用意したんだか、黒の燕尾服に長いマントを着こなし、口元を見ると尖った牙まで装着していて。髪型こそ普段通りではあるが、逆にそれがしっくりきている。
「26にもなって何やってるの」
どうやら自覚はあったようで、よくよく聞くとレイア達に無理矢理着させられたらしい。彼女達はというと、領主邸で行われたハロウィンパーティーに参加をしてそのまま泊まってくるとのことだ。私は別件で街を離れていて、先ほどカラハ・シャールの宿に到着したところである。
「ま、たまにはお祭りムードに流されてみるのもいいんじゃねえの?」
適当にあしらったつもりだったが、次の瞬間しまったと後悔をした。アルヴィンがにやりと口元を歪めるのが見えたからだ。
「お、お菓子が無いからいたずらしてくれ、なんてベッタベタなこと言わないわよね?」
ぐるりと反転する視界に思わず目を瞑る。ぼすっと背中に柔らかい反発を感じた。恐る恐る目を開けると、余裕の笑みを浮かべたアルヴィンの顔と宿屋の天井が拡がっている。
「逆じゃないの?これ」
半眼でそう呟くと、ははっと空笑いが聞こえた。
「ところでは、トリックオアトリートの意味わかってる?」
そんなとこだろうと思った。
「ってことで、俺が今から最高のおもてなしをしてやるよ」
そう言って降りてきた唇に抵抗する気も失せた私は、ゆっくりと目を閉じてそれを受け入れる。柔らかくて甘いそれはやっぱりお菓子なんじゃない、なんて思ってしまったなんて口には出さないけど。
Trick or Treat?
(―――あなたのお好きな方で)
END
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