「こら、。授業中にお菓子を食うな」
私のお昼の活力が! 糖分が! これじゃ授業に集中できない……。
「ほい、今日はここまで。次はガイアス先生に戻るかんなー。今日みたいにぼーっとしてっと殺されるぞ。特に、お前後で保健室ね」
そう言うと、アルヴィン先生は右手に持った赤い箱をこれ見よがしに振って見せた。
コンコンとノックのすぐ後で、入室許可の声が聞こえた。軽いドアを開けると、こちらに背を向けて座るアルヴィン先生の白衣と濃茶の髪が視界に飛び込んでくる。デスクの上には赤いポッキンの箱。
「アルヴィン先生。呼ばれたとおり来ましたよ〜」
そう言うとアルヴィン先生は呆れ顔を歪ませ、途端に意地悪な笑みを浮かべた。この顔好きだな。
「先生。重いです」
噴出しながらも先生の広い背中に手を回すと、ぽんぽんとあやすように叩いてやった。ぎゅうっと私を抱き締める腕に力が篭る。
「先生?ちょっと苦しい」
すっと離れた温もりに少し寂しさを感じながらも、私は先生のデスクに置いているポッキンの箱を手に取りソファに腰掛けた。同時にカチャリと鍵が下ろされる音が聞こえる。ぼすんと勢いよくアルヴィン先生が私の隣に座ると、僅かに左に重心が傾いた。
「先生も食べる?」
咀嚼する音が静かな保健室内に響く。先生は黙って隣に座って、私はただもくもくとポッキンを食べる。このなんでもない空間が結構好きだったりする。
「そうだ、アルヴィン先生」
一本取り出して口に咥えると、早くと言いたげにゆらゆらと揺らしてみた。今更こんなことで照れるような間柄じゃないけど、先生はどこか焦った様子に見える。あ……早くしないとチョコが溶けちゃうよ、先生。
「へんへーふぁやふー(せんせーはやくー)」
端っこを咥えた先生がぽりぽりとすごい勢いでポッキンを噛み砕いていく。私はひとつも進んでいないというのに、すでにもう唇と唇が触れてしまいそう。思わずぎゅっと目を瞑ると、ふっと先生が笑った気がした。
「続きは帰ってからな」
ぽんぽんと頭を撫でられて、思い出したかのように赤くなる私を先生は堪えることなく笑っていた。からかうつもりが逆にからかわれていたようだ。恥ずかしいやら悔しいやら。残り一センチほどになったポッキンをがりっと噛み砕くと、口の中でじんわりと甘く溶けてしまった。
溶けそうなほど甘い甘い
「ほら、。帰るぞ」
わないけど……なんて言葉はすんでのところで飲む込むことができた。
END
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