La storia di me e lei e loro
「いっやー!楽しみだなぁ〜!ひっさびさに食べるもん、アレ!!」
それぞれがそれぞれに、今日振舞われる"アレ"がいかに素晴らしいかと話し、まだ"ソレ"を未経験なリベルタがいかにも待ち遠しいとばかりに笑った。
「・・・・・・僕も、嫌いではない。」
普段はクールで強く感情を表に出さないノヴァでさえ、歳相応に表情を崩してそう言う。
「珍しーな、ノヴァがそこまで言うなんてさ。背とか伸びんの、ソレ?ぷぷぷ」
バタバタと廊下を走る足音が二人分。
「はぁ・・・・・ガキどもは動いて腹空かして・・・・・・って、食う準備万端だな。」
走り去ったパーチェを見送りながら呆れた声を出すに、デビトはずいっと身を乗り出すが、彼女は特に気にした様子もなくただ「うん」と頷いた。
「いくらルカの"アレ"が美味しいと言っても、やっぱり甘いものはちょっとね・・・・・・」
廊下の端にもたれてしばらく話していた二人だったが、廊下の向こうで自分を呼ぶ声には口を閉じて振り返った。
「あら、レリオ。そんなに慌ててどうしたの?」
今日は久しぶりに全員が集まっての"アレ"が振舞われる日。
「ま、いいわ。それじゃあデビト。また後でね。」
ひらひらと手を振って去って行くデビトの背中を見ていただったが、すぐにレリオへと視線を向けた。
「応接室・・・・・・で、いいのよね?」
頷くレリオに「一人で大丈夫だから」と言って去らせ、は館の隅にある応接室へと足を向けた。
「ええと、あとはお皿とフォークと・・・・・・」
厨房で忙しなく、それでいて流れるように準備をこなすルカは、入ってきた影を見つけてニコリと微笑んだ。
「あ、お嬢様、もう少しお待ちくださいね。今オーブンを温めていますから。」
フェリチータが指差す先には、こんがりと焼き上がりを待つかのように綺麗に整えられたリモーネパイ。
「ええ、お嬢様の大好きなリモーネパイですよ。って、他の人たちはどこに行ってしまったんでしょう。焼き立てを食べたいと言って、あんなにうるさかったのに・・・・・・」
廊下ですれ違ったノヴァとリベルタはそれはそれは険悪なムードだったのだが、フェリチータの目にはそうは映らなかったらしい。
「誰か一人でもここに来れば、きっとみんなも気付くでしょうから・・・・・。ね?」
快諾したフェリチータに、ルカも満面の笑みを浮かべた。
「おいしい物の匂いに敏感なのは、パーチェだけじゃありませんしね。」
どこか含みを持たせた言い方に、フェリチータは首を傾げるが、ルカはそれ以上何も言おうとはしない。
『いい加減にして!!』
突然耳に飛び込んできた怒鳴り声に、フェリチータはびくりと肩を跳ね上がらせた。
『もうここへは来ないでって言ったでしょう!?何度言えば気が済むのよ!!私は知らない!!家なんて知らないわ!!!』
聞こえてくる会話の内容は、フェリチータには到底理解のできないことであった。
「・・・・・・?」
フェリチータが小さく呟くと同時に、ガンッ!と何かがぶつかる音が響いた。
『あの人たちに伝えてください。・・・・・・私は貴方たちの娘じゃない、と。私の家族はここに居ます。この『アルカナ・ファミリア』が私の家族です。どうぞお引取りください。そして何度も言うようにもう二度とここへは来ないでください。』
フェリチータは静かにドアノブから手を離した。
「あら、お嬢様。」
その場から去ろうとしていたフェリチータの背中に声がかかる。
「あの・・・・・・・・・あのね・・・えっと・・・・・・」
微笑みながらそう言うに、フェリチータは"いつも通りだ"と、ほっと胸を撫で下ろした。
「でも、今日は遠慮しておくわ。ルカにもそう伝えて。せっかく呼びに来てくれたのに、ごめんなさいね?」
フェリチータの呼びかけに振り返ることなく、は背を向けて去ってしまった。
「おっ嬢ー!!どうしたんだ?こんな廊下の真ん中で。」
心配そうに顔を覗き込んでくるリベルタに、フェリチータはぶんぶんと大きく首を横に振った。
「な、なんでもないの。そうだ!ルカがパイがもうすぐ焼けるから、呼んできてって。」
リベルタに手を引かれて先を歩くフェリチータを、ノヴァは怪訝そうな表情を浮かべながら見つめた。
食堂にふんわりと甘い匂いが満たされ、集まった全員がほうっと息を吐いた。
「良い匂いだ・・・・・・」
普段は引き締まった表情を緩めてノヴァがそう言うと、続くようにデビトは口角を上げた。
「では、みなさん揃いましたので・・・・・って、の姿が見当たりませんね?」
室内を見渡してもの姿は見当たらず、心配そうに眉根を寄せたルカに、フェリチータはおずおずと近付いた。
「あ、あのね・・・ルカ。は今日は遠慮しておくって・・・・・ごめんなさいって言ってた。」
顎に手を当てて考え込むルカの隣で、デビトが機嫌を損ねたように眉間に皺を寄せた。
「オレも今回はパス。」
早々に食堂を後にしようとするデビトの肩をルカが掴んだ。
「宛に来客があった。」
かわいそうにと言うデビトの隣で、ルカは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
「の分のパイはこれか?ちっと届けてくるわ。」
一切れのリモーネパイが乗った白いプレートを片手に、デビトは食堂を後にした。
「お願いしますよ、デビト・・・・・・」
そう呟いたルカは、未だ心配そうな表情を浮かべるフェリチータへと近付くと、その不安を取り除くように穏やかな笑みを浮かべた。
しんっと静まった廊下に、ノックの音がやけに大きく響いた。
カチャ・・・
「おーう、。急にキャンセルなんて、ルカちゃんが泣いてたゼぇ?」
くすくすと笑っていただったが、すぐに彼女は表情を曇らせた。
「誰が来たかって、気付いてたんだ?」
廊下に他の誰も居ないことを確認したは、デビトを招き入れると静かに扉を閉めた。
「で?」
ぴたりとが口を閉じた。
「腹が立つのよ・・・・・・物心ついた時には教会で生活してて、本当の家族の記憶なんて無いし、それこそパードレやデビトたちが本当の家族だと思ってた。今更、見たことも会ったこともない親が出てきても、だから何って感じだわ?その上あんな・・・・・・」
かちゃんとフォークがプレートにぶつかり音をたてる。
「・・・・・前に一度さ、デビトが追い返してくれたじゃない?」
残念と口にしたは、困ったように眉を下げて微笑んでいた。
「なァ、。」
顔を上げたの瞳に、優しく微笑むデビトの姿が映し出された。
「次来たら、ちゃんとオレたちを呼べよ。オレもルカもパーチェも、お前のこと大事な家族だと思ってんだからよ。どこの馬の骨ともしらねぇジジババに渡して堪るかってんだ。」
真ん丸に見開かれていたの目が、弓形に細められた。
「ありがと、デビト。本当に・・・・・嬉しいよ。」
くしゃくしゃと髪の毛を掻き混ぜられる懐かしい感触に、は幼い頃と同じように声を上げて笑う。
「さてと、んじゃ行くか。」
ソファーから立ち上がり、デビトが右手を差し出した。
「"ルカのお茶と一緒に食べてこそ、このリモーネパイの真の美味しさが発揮される"。そう言ったのはお前だろォ?。」
ティーカップは置いてプレートを左手に、右手にはデビトの手を握って、は一人籠もっていた部屋を後にする。
残りのパイを巡って取り合いをする者。
食堂の騒がしさを想像して、はふふっと笑い声を漏らした。
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