La storia di me e lei e loro 
< 私と彼女と彼らの物語 >
02...アルカナ・デュエロ







コンコン・・・・・・コンコン・・・・・・

館の一番奥、一際大きな扉を叩く。

か・・・・・・入れ。」
「失礼します。」

扉を開き足を踏み入れると、彼女の予想に反し、執務室内にはモンド一人しか居なかった。
無意識に視線が他の三人を探してしまう。

「ダンテとジョーリィなら席を外させた。今頃スミレとでも話しているだろう。・・・・・・まぁ座れ。」

ピクリとの眉が上がる。
モンドの視線の先にある一人掛けのソファーに腰掛けると、口元で指を組んだ彼を見上げる形になる。

「この歳になってから言うのもなんだが・・・・・・お前に気付かれるとは俺もまだまだだな。」

「思ってもないことを・・・・・・」そう言いたいのをぐっと我慢し、は開いては震えてしまいそうな唇ときゅっと噛み締めた。
ふっとモンドが笑う。

「聞きたいことが・・・いや、言いたいことがあるんだろう?」
「・・・・・・えぇ。」

そう頷いたきり黙りこんだに、モンドは視線のみで先を促した。

「『アルカナ・デュエロ』。パーパはファミリーのトップの座を譲る者を決めるための戦いだって言ったけど・・・・・・正直、そんなの二の次なんじゃ・・・・・・本当はっ・・・」
「どうしてそう思う?」

彼女の言葉を遮って、モンドが訊ねる。
ぐっと息を飲んだは、この先を言っていいものかと思案した。

「ずっと・・・・・・パーパの言葉を聞いてから嫌な予感が止まらないのよ。隠居だなんてパーパらしくもない。・・・・・・それに、お嬢様を館の外に出ることを許さないなんて・・・これから先、何かが起こるって言ってるようなものだと・・・」

黙ったまま答える気配もないモンドを見据え、は言葉を続けた。

「パーパのあんな辛そうな顔・・・・・・私、初めて見た。ねぇ、パーパ・・・これから先、一体何が起こるの?」
「さあな。」
「誤魔化さないで!」

立ち上がったの後ろで、ソファーががたりと大きな音をたてた。
モンドが大きく息を吐く。

「落ち着け、。流石の俺も未来のことはわからん。だが、一つだけ確実なことがある。」
「なに・・・・・・?」
「今のままでは、確実にファミリー内に混乱が生じる。」
「こん、らん・・・・・・?」

まるで、初めて口にする言葉のように言うリナータに、モンドは黙って頷いた。

「それを避けるために、俺は『アルカナ・デュエロ』を提案した。デュエロまでの2ヶ月間、お前も鍛錬に励むのだな。そして、お前が望むようにフェリチータを自由にでもなんでもすればいい。」
「それは・・・・・・パーパの願いでもあるの?」

モンドの目が僅かに見開かれた。
くっくと喉の奥で笑う声が聞こえる。
は張り詰めていた空気を解くように、はぁ・・・と大きく溜息を吐いた。

「さぁ、。もう行くがいい。」
「最後にひとつだけ・・・・・・」
「なんだ?」

こつりとヒールを鳴らし、がモンドに一歩近付く。
指を解き、今度は腕を組んだモンドが、椅子に深く腰を掛け直した。
ギィと椅子が軋む。

「優勝者の望みを何でも叶えるっていうのは・・・・・・・・・本当に?何でも?」

の瞳が目に見えて揺れる。
期待と不安が入り混じるその瞳で、はモンドをじっと見つめた。

「お前が心から願うことであれば・・・・・・な。」
「っ!!・・・・・・・・わかったわ・・・・」

モンドに背を向け、は執務室の扉へ手を掛けた。
「あぁ、そうだ。」と投げかけられた声に、顔だけを後ろへ向ける。

「わかっているかとは思うが、今の会話は他言無用だ。特にフェリチータへは、な。」
「えぇ、わかってるわ。それに・・・・・・パーパがファミリーの・・・ちゃんとお嬢様の為を想ってるってことも。それがわかれば、私は満足よ、パーパ。」

頷いたは、執務室を後にした。
廊下に出た瞬間、締めた扉に背を預け、は長く息を吐き出す。
「はっはっは!」と大きな笑い声が扉越しに聞こえた。

(『お前が心から願うことであれば、な』・・・・・・か。全部お見通しって訳ね・・・)

自嘲気味に笑い、は自室へ戻るために来た道を戻った。




「こーのむっつりヤロー、なにバンビーナと二人きりになってやがる。」
「な!?」
「そーだよー!お嬢の事はみんな心配してたんだからなー!」

庭と繋がった渡り廊下に差し掛かった瞬間、ふと耳にそんな会話が聞こえてきた。
庭の中心にある大きな噴水の前に見知った姿が四つと、その後ろにさらに二つ。

「そうだそうだ!いつもなら『放っておけ』とかスカしたことを言う、チビッ子幹部も一緒に来ちゃうくらいなんだからな!」
「・・・・・・バカにしているのか・・・・・・?大体、今のは僕のマネのつもりか?」
「ふふ。似てないわね、リベルタ。」

笑いながら近付くと、ノヴァが「あたりまえだ!」と声を上げて怒る。

「お、。パーパとの密会は終わったのかァ?」
「密会だなんて人聞きが悪いわよ、デビト。」

相変わらず厭らしい笑みを浮かべるデビトを睨みつけ、はフェリチータへと近付いた。
体は平気かと問うと、フェリチータは笑顔を浮かべて頷く。

「なんだお前ら、こんなところに集まって。」
「クックック・・・・・・さしずめ傷心のお嬢様を励ます、心温まる場面、と言ったところか?」

じゃりっとタイルを踏む足音と共に、ダンテとジョーリィまで姿を現した。

「ジョーリィ、余計な口を挟まないでください。大体、どうしてあなたまでいるんですか。」
「もちろん・・・・・・お嬢様を心配して、さ。」
「嘘くさい・・・・・・」
、何か言ったかな?」
「い・い・え。べ・つ・に。」

心の籠もらない返事を返すに、ダンテが声を上げて笑う。

「ははは、俺たちはモンドと話をしてきた帰り道だ。」
「そんなことだろうと・・・・・・」

半眼で呟いたルカが、くるりとフェリチータへと向き直った。

「ね、お嬢様。まず、お嬢様の進みたい道の為、アルカナ能力を強くして、ここにいる誰よりも強くなるのが一番です。頑張ってくださいね?」
「なんだルカ、昔みたいに甘やかさないのか。」
「やめてください。私だって、いつまでもあの時のままじゃありませんよ?」

紫煙を燻らせながら言うダンテに、ルカは困ったように笑う。
「そうかなぁ〜?」なんてからかうパーチェに、デビトともうんうんと頷く。

「まっ、アルカナ能力に頼んなくなって、オレの実力で何とかなるって!」
「あら、リベルタ。それはダメよ?」
「なんでだよー、!」

ぷくっと頬を膨らませるリベルタに、説明を加えようとは口を開くが、すっと伸びた腕に肩を掴まれ開いた口からは小さな悲鳴しか出なかった。

「ジョーリィ・・・・・・びっくりするじゃない。」
「ククク。まぁ、ルカのいう事にも一理ある。考えてもみたまえ。君の腕と私のアルカナ能力。強いのはどちらだ?」

彼の問いに、問われたリベルタ本人よりもノヴァが深く考え込むように俯いた。
満足げに頷いたジョーリィは言葉を続ける。

「所詮、人の力。アルカナ能力に勝つことは出来ない。」
「・・・・・・確かに。」

不満げな表情を浮かべるリベルタと、肯定の意を示すノヴァ。
全く彼らは本当に正反対だとは軽く微笑む。

「アルカナ能力を強くしたければ、精神力を鍛えればいい。アルカナ能力は精神力を基盤とした力。君たちお子様の能力が不安定なのは、そういった理由だからさ。」
「オレたちの精神力が弱いって言うのかよ!いざとなったらオレだってジョーリィなんか一発で・・・・・・」

呆れたように溜息を吐くフェリチータと、いつものことだと微笑ましい表情で見守るの間をスッとデビトが通り過ぎ、リベルタの背後を取る。
トントンと指先で肩を叩き、「なんだよ!」と声を上げるリベルタにニヤニヤとした笑みを向けるデビト。

「・・・・・・な、リベルタ。ちょい上見てみ?」
「へ?上?」

デビトの言葉に、リベルタだけでなくを始め数人が上を向く。
ノヴァは呆れたように頭を抱え、大きな溜息を吐いた。
庭の噴水の中心には、モンドがジョーリィに作らせたフェリチータの石像が建っている。
それはとにかく精巧で、細かいところまでよく再現されており・・・・・・

「・・・・・・てっ、てめーデビト!!オレせっかくスカートの中だけは見ないように気を付けてたのに!!!」
「クックック。精神力が弱いってのはこーいう事言うんだァ、リベルタ。バンビーナの・・・それも石像のパンツ見ちまったくらいでうろたえてるようじゃァ―――『アルカナ・デュエロ』には勝てないだろうナァ。」
「うっ、うろたえてなんかねーし!!べつにコイツのパ・・・・・・・ン・・・・・・ッなんか見たってどってこと・・・・・・」
「・・・・・・鼻血出てるぞ。」
「うぉおっ!?」

半眼で溜息交じりのノヴァに指摘され、リベルタが慌てて鼻を拭う。

「もう・・・・・・バカなんだから・・・」
「ふふ。」

呆れて溜息しか出ないフェリチータの隣では、例え石像とは言え自分の愛するお嬢様のパンツを見られたことにルカが静かに怒りを燃やしていた。
はやはり昔と変わらない幼馴染の姿に苦笑を零し、そして尚も鼻血を流し続けるリベルタに呆れた視線を向ける。

「リベルタ・・・あなたもう18歳でしょう?」
「そーそー。なァ、ダンテ、リベルタの育て方間違ったんじゃねーの?」

鼻血が止まらないリベルタにハンカチを渡しながら苦笑するに、デビトも同感だと笑う。
話を振られたダンテも誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「育ての親としては面目ないが・・・・・・周りは海の男ばかりだったからなぁ。ま、その辺はおいおい教えてやってくれ。」
「ダメよ、ダンテ。デビトなんかに教えさせちゃロクでもない男に仕上がっちゃうわよ?」
「おーいおい、。そりゃどーいう意味だァ?」
「あら。言ったままの意味よ?」

二人のやり取りに大きな笑い声を上げたダンテは、ようやく鼻血の止まったリベルタの頭に手を置き彼の赤く染まった顔を覗き込んだ。
「な、なんだよ・・・・・・」とリベルタがうろたえる。

「俺が教えるには、こいつにゃまだまだ渋みが足りん。俺みたいに・・・・・・ダーンテな!」

キラキラとキメ顔をするダンテに反し、その場に居た全員が半眼になった。

「部屋に戻るか。」

真っ先にジョーリィがダンテに背を向ける。

「そうだな。」

ノヴァがそれに続き、

「ふわぁああああ!疲れたー!」

パーチェが大きなあくびを漏らす。

「なーんか今日はいろいろあったよなー。」

そんなパーチェの隣でリベルタが今日一日を思い出すように空を見上げ、

「こういう日は早く休むに限ります。」

ルカが笑顔でそう答えると、

「はァ?今から出かけるに決まってんだろォ。」

と、デビトが抗議の声を上げた。
フクロータまでもがダンテを避けるように空に舞い上がり、最後に全員の背中を追うようにが歩き出した。
ダンテが肩を落とし、ゆっくりと反対方向へと歩き始める。
あっちは港へ続く門だが大丈夫だろうか。

「・・・・・・ねぇ、。」
「ん?どうしたのかしら、お嬢様。」

振り返ると、未だ噴水の傍から動いていないフェリチータが、どこか寂しげにを見つめていた。
慌てて駆け戻る。

「もう少し話したい・・・・・・」
「それじゃ、もう少しここに居ましょうか。」

微笑みかけるに、フェリチータは嬉しそうに頷く。
噴水の縁に二人して腰掛ける。
まだ涼しい風が吹き抜け、マンマ自慢の薔薇の花が揺れた。

「そんな不安そうな顔しないで、お嬢様。」
「・・・・・・・・・」

地面を見つめたまま動かないフェリチータの、膝で固く握られた彼女の拳にそっと己の手を重ねる。
よほど気を張っていたのだろうか、しっとりと汗が滲んでいる。

は・・・・・・パーパと何の話をしていたの?」
「うーん、そうね。私が『アルカナ・デュエロ』で優勝した場合、お嬢様と結婚させてくれるのか?って。」
「もう!からかわないで!」
「ふふふ。」

怒って立ち上がったフェリチータの頬は、僅かに赤みが差している。
くすくすと笑うにつられたのだろうか、ふっと表情を崩したのを境にフェリチータも楽しそうに笑い始めた。

「ねぇ、お嬢様。せっかくのパーパの誕生パーティだったのに取り乱しちゃってごめんなさいね。」

フェリチータがぶんぶんと首を横に振る。

「ううん。私・・・嬉しかった。私ね、パーパが・・・・・・何を考えてるのかわかんなくて恐かったの。でもが、みんなが私を守ってくれた。」
「そうね。私もみんなも、お嬢様のことが大好きだもの。でもお嬢様?・・・・・・マンマが言った通り、お嬢様が勝つ道があるわ。パーパはあんな風に言ってたけど、お嬢様は確かに強い。それこそ誰の手も借りずに自力で剣の幹部になったほどに。それは誰にでも出来ることじゃないわ。自身を持って?」

こくんとフェリチータが頷く。

「ありがとう、。私・・・・・・やってみる!」
「ええ、その意気よ。・・・・・・でも、本当にお嬢様と結婚したら毎日が楽しそう。」
!!」
「ふふ、冗談よ?」
「冗談に見えない・・・・・・」
「ふふふ。」

廊下からリベルタが呼ぶ声が聞こえる。
風も冷たくなってきた。

「さ、お嬢様。戻りましょう。明日からも忙しいわよ?」
「うん。」

が立ち上がり手を差し出すと、フェリチータはなんの躊躇いもなく手を重ねてきた。
きゅっとその手を握り、ぶんぶんと手を振るリベルタの元へと歩き出す。
ふと見上げると丸く大きな月がぽっかりと浮かんでいた。


4月1日


『アルカナ・デュエロ』開催まで、あと2ヶ月。









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