La storia di me e lei e loro 
< 私と彼女と彼らの物語 >
03...Congratularsi







4月2日
天気はレガーロ晴れ。
昨夜行われたモンドの誕生日パーティの騒動から一夜明け、ファミリーの館内はどこか落ち着かない様子でざわついていた。
それもそのはず。
突然に告げられた、モンドの引退と新たなパーパの選定。
大アルカナを持つ者同士の決闘、『アルカナ・デュエロ』。
そして、フェリチータの結婚。
あちらこちらでスートたちが囁く声が聞こえ、そんな声があるからこそ『アルカナ・デュエロ』の当事者であるも、朝からずっとうわの空だった。

「ふぅ・・・・・・」
「もう・・・室長ってば、今日何回目の溜息?」

無意識に出てしまう溜息に、トニーノが書類から目を離し呆れた声を上げる。
先ほどから何度も繰り返されているやり取りなのだが、しんっと静まり返った次の瞬間には再び、の口から大きな溜息が飛び出してしまう。
そんな様子に、積み上げられた書類を静かに処理していたレリオがついに声を上げた。

「室長・・・・・・こっちが集中できません!少し休憩してきてください!!」
「ご、ごめん・・・・・・でもほら、レリオ。やっぱり落ち着かなくて。」

はははと苦笑いを浮かべたは、手元の書類に目を落としかけて気付いた。
彼の前に積まれていた書類はいつの間にか綺麗に片付けられており、本来であればが処理しなければいけない書類の島にまでレリオの手が伸びている。
自身はと言えば、朝一で手をつけたはずの書類の半分も進んでいない。
「ごめんなさい」と再びレリオに謝罪をすると、彼は小さな溜息を吐いて顔を上げた。

「『アルカナ・デュエロ』・・・ですか?」
「それもあるんだけど・・・・・・」
「けど?」

首を傾げて問いかけるレリオに、ハッと顔を上げたは「なんでもない」と、ただ首を横に振る。
執務室内に居た全員がの様子に首を傾げるが、誰も深くは追求しようとしない。
の性格がそうさせるのか、彼女の部下たちは不必要に詮索するようなことはしないのだ。
そんな彼らに救われると同時に、このままでは仕事の邪魔になってしまうと、レリオの言葉に甘え少し早い昼食に出かけることにした。
食堂に行けばマーサの出来たてプランツォを食べることができるだろうが、館内に籠もっているよりかは外に出た方が気分転換になるだろう。
とりあえずビヴァーチェ広場かフィオーレ通りまで行けば何かがあるだろうと、は玄関ホールへと向かった。

「あっれ〜?、どこ行くの?」
「パーチェ。あなたこそ、こんなところで何をしているのかしら?午前の"巡回"はどうしたの?」

玄関ホールから正面門に続く石畳に、この時間にしては珍しい人物を見つけは駆け寄った。
毎日の日課である食べ歩き、もとい"巡回"の真っ最中であろう時間なのに、何故か館内にいるパーチェに疑問を投げかける。
途端にパーチェの表情が曇り、ついには泣き出しそうに歪み始めた。
「あぁ・・・なるほど・・・・・・」とは、呆れたようにパーチェを見つめる。
彼がこんな表情を浮かべる時といえばひとつしかない。

「もう・・・・・・また書類溜め込んだんでしょ。」
「えぇ!?ってば、なんでわかったの!?」
「わかるわよ!まったく・・・毎回毎回ダンテに怒られてるのはどこの誰よ・・・・・・どうせ、『終わるまで巡回に行けると思うなよ!』とでも言われたんでしょ。」
「うっわー、正解!」
「正解!じゃない!」

がパーチェを怒鳴りつける。
自分に関係のないことであれば彼女もここまで怒りはしないのだが、なんと言ってもパーチェは幹部長代理である。
そして、は幹部長補佐も担っている。
彼が処理しきれない書類は全てに回ってくるのだ。
ファミリー内の会計処理一切を取り仕切っているはそれでなくとも忙しいというのに、さらにパーチェの残した書類が回ってくるとなると、怒りのひとつやふたつぶつけたくなってしまう。
実際ダンテには何度も相談という名の愚痴を零しており、そのせいなのだろう、パーチェが処理しきれなかった書類がに回ってくる頻度も現在ではぐっと減っている。
その分、ダンテが怒鳴る回数はかなり増えているのだろうが、きっと目の前の男はそんな事実に気付いていないのだろう。

「ねーねー、こそ今からどこかに行くの?暇だったら、おれとラ・ザーニアでもどう?」

あははと暢気に笑いながら言うパーチェに、は大きな溜息を吐いた。
本当にダンテが気の毒だ。

「確かに今から昼食に行こうかと思ってたけど・・・・・・ラザニアって気分じゃないのよね。」
「そっかー。じゃあ、一緒にごはんに行こう!!の食べたいもの言ってよ!おれがいっちばん美味しいお店に連れてくから!」

自信満々なパーチェの言葉に甘え、は彼と一緒に昼食を摂ることに決めた。
レガーロ島内の店はどこも美味しいと評判なのだが、その中でもパーチェの選ぶ店は特に美味しいのだ。

「ミネストゥローネが食べたいわね。」
ってば、なにかって言うと絶対にスープを選ぶよね〜。」
「好きなものはしょうがないじゃない。そもそも、パーチェが私の食べたいもの聞くからでしょ?答えはわかってるくせに。」
「まーねー。ミネストゥローネなら、フィオーレ通り奥のトラットリアがオススメだ!あそこはラ・ザーニアも最高なんだよなぁ〜。」

結局はそこかと言うに、パーチェは笑顔で頷いた。

「さぁ行こう!すぐ行こう!!ラ・ザーニアー!!」
「もう・・・・・・、ふふふ。」

拳を振り上げてパーチェが歩き出す。
うきうきと跳ねる背中には呆れたように溜息を吐くが、すぐに笑みを零した。
早足でパーチェの隣に並ぶと、自然とパーチェの手がの手を包み込む。
幼い頃から当然の様にしてきたそれを、は自然に受け入れパーチェの手を握り返した。




「オイオイ、そこのお二人さん。」

昼食にはまだ少し早い時間だと言うのに、フィオーレ通りは賑わっていた。
立ち並ぶバールやトラットリアからは食欲をそそる良い匂いが漂っており、それに魅かれてお腹を空かせた人々が集まっているようだ。
ガヤガヤと騒がしい中、手を引かれパーチェが薦めるトラットリアへと向かう途中、背後から聞こえてきた耳に慣れた声に二人はぴたりと足を止めた。

「あら、デビトじゃない。」
「デビトー!!デビトもお昼ごはん〜?」

とパーチェが振り返った先で、右目に眼帯をした男、金貨の幹部であるデビトが呆れたように左目を細めている。
眉間に皺を寄せたままゆっくりと近付いてきたデビトは、手刀を二人の間に振り下ろした。

「いたっ!!ちょっと、デビト、何するのよ!!」
「何すんのよ、じゃねェ。ったく、ガキん頃よろしく手なんか繋いでんじゃねーよ。」
「いいじゃーん、べつにー!おれとの仲だよー?」
「どんな仲だっつーんだよ!」
「あー、もう!二人ともうるさい!!パーチェ、お昼ごはん行くんでしょ?ほら、デビトも一緒に行くわよ。」

それでなくとも人が多い通りで、ぎゃあぎゃあと騒ぐ大男二人はかなり目立つ。
それに、今日この辺りの見回りは聖杯の担当のはずだ。
聖杯の幹部、ノヴァに見つかっては、それこそめんどくさいことになってしまうと、は二人の腕を掴んで歩き出した。

「んで?メシ、どこに行くんだァ?」
「フィオーレ通りの奥にパーチェおすすめのトラットリアがあるそうなんだけど。」
「あァ?あの裏通りのか?おい、パーチェ。あそこなら今日は休みだぜ?」
「えぇ!?そうなの!?」

目を見開いたかと思えば、彼のテンションが一気に下がった。
さっきまで数歩前を意気揚々と歩いていたのに、とぼとぼと足を引き摺りながら戻ってくる様子は、見ている者のテンションまで下げてしまいそうだ。

「ほ、ほら、パーチェ!いつものバールにしましょう?あそこのラザニア好きでしょう?」

目の前でしょんぼりと肩を落とすパーチェにがそう言うと、彼の機嫌が一気に戻る。
まったく単純というか簡単というか・・・・・・苦笑いを浮かべたと鼻で笑うデビトは、「ラ・ザーニア!ラ・ザーニア!」と鼻歌を歌い先を歩き始めたパーチェの後を追った。

バールに着いた時にはもう昼食時だったようで、唯一空いていた奥のテーブルに三人仲良く並んで座ると、店員がすぐに注文を取りに来た。

「えっとー、とりあえずラ・ザーニア20人前とピッツァを10枚!」
「ミネストゥローネ1人前。デビトは?」
「ワイン。」
「じゃあ、いつものワインを1本。グラスは2つでいいわ。」

笑顔で戻っていく店員の後姿を眺めていると、突然デビトが「なァ」と声をかけてきた。
視線を向けると、彼は楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべている。

「昨日の夜、パーパと何話してたんだァ?」
「あ、それおれも気になるぅー!」

四つの目玉に見つめられ、はどこか居心地悪そうに身じろいだ。
確信を突いた話ではなかったとは言え、モンドからは他言無用と言われた会話。
フェリチータから問われた時と同じ返しをしたところで、嘘だとバレるのは明白で―――――ふぅっと小さく息を吐いたは、仕方が無いと言った風に二人を見つめ返した。

「デュエロの優勝者の望みを、パーパが何でも叶えてくれるって言ってたでしょ?」

うんうんとパーチェが頷く隣で、デビトの眉がぴくりと動いた。

「本当に・・・・・・なんでも叶えてくれるのか?って聞いたのよ。」
「え?それだけ?」
「うん、それだけ。」

肩透かしを食らったような顔をするパーチェの前を、店員の腕が横切る。
テーブルには焼きたてのピッツァが5枚とワインボトルが1本、そしてグラスが2個置かれた。
の手が動き、グラスにワインを注ぎ始める。
一つをデビトの前に、もう一つを自分の前に。

「・・・・・・パーパは何て答えたんだ?」

グラスに口を付けて傾けた瞬間、デビトが低い声でそう尋ねた。
ワインを一口飲み下したは、すでに会話の内容に興味を失いピッツァを頬張ることに必死なパーチェの姿を眺めながら、ふっと自嘲気味に笑った。
とデビトを遮るように、ラザニアが並べられる。

「私が心から望むことなら・・・・・・叶えてくれるそうよ?」
「おい、・・・・・・お前もしかして・・・・・・」
「あっ!お嬢〜〜!!こっちこっち!!」

言いかけたデビトの声を、パーチェの嬉しそうな声が掻き消す。
ハッと顔を上げた二人が振り返ると、バールの入り口にフェリチータとルカの姿を見つけた。

「ちょうどラ・ザーニアが来たとこだよ〜〜〜!!!」
「パーチェ・・・・・・てめぇ、声がでけーよ!」
「ふふふ。お嬢様、ルカ。お疲れ様。」
「お疲れ!お嬢、ルカ!!」

未だ空く気配の無い店内を縫うように、フェリチータとルカがテーブルへと近付いてくる。
流れるような仕草でひとつ椅子を引いたは、そこへフェリチータを招き入れると、自分はちゃっかりとその隣に着席をした。

「デビト、早かったんですね。それにパーチェとも。」
「まーな、こっちはもっとゆっくりしたかったってのに・・・・・・このバカふたりに捕まっちまってよォ。」
「一緒くたにしないで。」

半眼で呟くを無視し、デビトは向かいに座ったフェリチータへと身を乗り出した。
びっくりしたのか、フェリチータは目を真ん丸にしている。

「んなことより、バンビーナァ。『アルカナ・デュエロ』について先に聞いたこととかさァ、オレにも教えてくれよ。」
「おれ、びっくりしたよ。パーパはいきなり、隠居するとか言いだすし、『アルカナ・デュエロ』に勝つとお嬢と結婚なんて―――」
「パーチェ」
「あっ、ごめん。」

結婚の二文字にフェリチータの表情が曇る。
失言をしたパーチェを諌めたルカが、いつもの優しい笑みを浮かべながらフェリチータへと向き直った。

「大丈夫です、お嬢様。きっとパーパもなにかお考えがあってのことだと思います。」
「ファミリーの掟は絶対。嫌なら、勝てばいい。パーパも言ってただろォ、デュエロ優勝者の望みを必ず叶えるってさァ。なァ、?」
「え?え・・・えぇ。そうよ、お嬢様。勝ってパーパを見返してやりましょう?」
「はい。まだ望みがないわけではありません。」

こくりとフェリチータが頷いた。
先ほどまで不安の色で少し濁っていた瞳は、今は澄んだ輝きを取り戻している。

「私・・・・・・頑張ってみる!」
「おれ、お嬢の応援するよ。」

頬張ったラザニアを飲み込み、パーチェが満面の笑みを浮かべる。
「お前も参加者の一人じゃねーか」と呆れたように言うデビトに、パーチェは軽く笑って頬を掻いた。

「おれ、ファミリーのトップとか難しいこととか良くわかんないし。それに、お嬢がファミリーのトップになったら毎日楽しそうじゃん。」
「ふふ、そうね。想像するだけで楽しそう。」

ワイングラスを片手にフェリチータを見つめ、思い描いた未来に笑みを零すの向かいで、デビトが席を立った。

「さってと、皿も空になったし、シエスタと行くかァ。」

誰かが何かを言う前に、デビトは足早にバールを後にする。

「え?デビト?」
「あー、お嬢様、いいのいいの。あいつ、いつもあんなんだから。」

「放っておきなさいな」と笑うに、フェリチータは「いいのかな・・・」とぽそりと呟いた。

「ね、デビト、さっき金貨の・・・・・・ってもういないし!!」

食べることに必死だったパーチェは、デビトが席を外したことにすら気付いていなかったようだ。
放って行かれたことに対してなのか、彼はしょんぼりと肩を落としながら、それでも店員に追加のドルチェを頼み始めた。

「まったく・・・・・・二人とも自由すぎですよ・・・・・・。では、お嬢様、私たちも館に戻りましょうか。」
「うん。」
「ほら、パーチェも。ドルチェ食べたらすぐに戻るわよ。それじゃ、お嬢様、ルカ。また後で。」
「また夜ごはん時にねー!!」

ぶんぶんと手を振るパーチェに、フェリチータもくすくすと笑いながら小さく手を振り返す。
扉の向こうに消えて行く背中を見つめながら、は残ったワインを一気に飲み干した。










昼食に出かけたことが良かったのか、昼からの仕事は思った以上に捗った。
霧がかかったようにもやもやする気持ちは変わらないが、仲間との何気ない時間を過ごすことによって頭にかかっていた霞は晴れたようだ。
朝にあれだけ溜め込んだ書類は、夕方にはすっかりと片付けられ、夕日が差し込む執務室では一人大きく伸びをしていた。

コンコン・・・コンコン・・・

控えめなノックの音が室内に響く。
入室を許可すると、すぐに扉が開かれ、そこに立った人物には驚き目を見開いた。

「お嬢様、私の執務室に来るなんて珍しいわね。どうかした?」
「夕食会の準備が出来たからって、ルカが。」
「ルカったら、お嬢様に呼びに来させるなんて・・・・・・仕方ない奴ね。」
「ううん、違うの。私が行きたいって言ったの。ほら、の執務室って来たことなかったから。」

慌てて首を横に振ったフェリチータが、執務室内をぐるりと見回した。
広くも狭くもない室内には、大きなデスクと壁一面の本棚。そして申し訳程度のインテリアと観葉植物。
正直殺風景で、フェリチータの目を引くものなど何もないのだが、それでも彼女はキラキラとした瞳をしている。

「そうだったわね。そうだ、お嬢様!今度ゆっくり遊びに来てちょうだい。ルカには及ばないけど、お茶とドルチェくらい用意するから。」
「いいの?嬉しい。」

目を輝かせて喜ぶフェリチータに、も嬉しそうに微笑む。

「あ!みんなを待たせてるんだった!。早く行こう?」
「ええ。」

今夜の夕食会の献立などを話しながら食堂へと向かうと、入り口の前でルカが微笑みながら待っていた。
どうやらもう全員が集まっているようだ。
「遅いですよ」と軽い小言を言われながら食堂へと入ると、パーチェが待ちきれないと言う様に着席を勧めてくる。
が席に着いたのを見計らい、パーチェがこほんと咳払いをした。

「今日の美味しいお魚ちゃんに・・・・・・サルーテ!」
「「「「「「「サルーテ!」」」」」」

がワイングラスを傾ける前に、パーチェが一皿を丸々食べてしまわん勢いでメインの魚料理を頬張った。
むぐむぐと咀嚼する様子は、頬袋いっぱいにどんぐりを頬張ったリスのようだ。

「いや〜、今日のお魚ちゃんは、ほんっとに美味しいなぁ!!」
「テメーのは今日に限らねぇだろうが。」

ワインを飲みながらデビトが呆れたように言うと、リベルタもパーチェに同意するように声を上げた。

「や、今日のは特に美味いって!このヒラメとか!」
「だよねぇ、リベルタ!!おれは地中海のヒラメになる!!」
「パーチェ、意味がわかりませんよ。」
「もっと静かに食え!」
「いつものことじゃない、ノヴァ。それに、食事は賑やかな方が楽しいわ。」

ひよこ豆のスープをスプーンで掬いながら、ノヴァが大きな溜息を吐いた。
こんなに美味しい食事を目の前に溜息を吐く方が失礼だとは思うが、勿論口には出さない。
綺麗に無視をして、パーチェとリベルタが美味い美味いと言うヒラメのムニエルを口に放り込んだ。

「あ、ほんとだ。美味しい。」
「だよな、!ほら、お嬢も食ってみ!・・・・・・な!すっげぇ美味くね?」

こくこくと頬を上気させながら頷くフェリチータに、リベルタは更にイワシのマリネを勧める。
海の男と豪語するだけあって、魚料理をほめられることが嬉しいようだ。

「あぁぁぁ!!!」

もイワシのマリネをつつきながら、ワイングラスを傾けたところで、ヒラメのムニエルをおかわりしていたはずのパーチェが、突然大声を上げた。

「ちょっと!どうしたのよ、パーチェ。」
「普段から声デカイのに、さらにデカイ声で騒ぐな。」
「あぁ、ごめん。でもさ、おれすっごく重要な事忘れてた・・・・・・」

報告書の提出を忘れていても、幹部長の呼び出しに遅刻しそうになっても、全く動じず暢気なパーチェがこんなに慌てるなんて珍しい。
「重要なこと?」と尋ねるノヴァに、パーチェは何度も頷いた。

「昨日はドタバタしてて、すっかり忘れてたけど・・・・・・お嬢が剣の幹部になったのに、ちゃんとお祝いできてないっ!」
「あぁぁぁ!パーチェ!それは由々しき問題よ!!」
「うるさいぞ、ふたりとも!そんなことで騒ぐな!!」
「そんなこととは何よ、ノヴァ!!」
「はいはいはいはい、そこまでにしてください。」

睨み合うノヴァとを割るように、ルカがずいっと身を乗り出してきた。

「パーチェ。まさかあなたが同じことを考えていたなんて思ってもみませんでしたよ。私も改めてお祝いしなくてはと思っていて・・・・・・ささやかながら、ケーキを用意しました!」
「さっすがルカちゃん!!よーし、今からお嬢の、剣の幹部の就任を祝って、カンパイしよう!」

テーブルの端に大事そうに置かれたトレーは何なのだと思っていたが、どうやらルカが事前に用意したケーキだったようだ。
しっとりとしたタルト生地の上には色とりどりのフルーツが盛られており、目にも楽しいそれはルカの手作りらしい。

「まぁ・・・・・・それには僕も異存はない、これからはこのレガーロ島を同じ立場で守っていく仲間だ。」
「さっきはあんなこと言ってたくせに。ま、俺も同感だ!」
「オレも、改めて歓迎するぜ。」
「えぇ。もちろん、私も歓迎するわ。」

それぞれの言葉に、フェリチータが頬を染めて微笑む。

「よーし、みんな。グラスは持ったな?」

全員がグラスを持ち上げると、パーチェが満足そうに口角を上げる。
フェリチータを除く全員がこくりと頷いた。

「お嬢、『アルカナ・ファミリア』にようこそ!」
「「「「「「サルーテ!!」」」」」」

そこここでグラスがぶつかり合う音と、笑い声が響いた。
アルコールを飲んでいないにも関わらずフェリチータの頬が赤いのは、きっと嬉しさからなのだろう。
同じようにリベルタとノヴァのふたりも僅かに頬を上気させている。

「改めてよろしくな、お嬢。幹部になったことで、これから大変なことも多いと思うけど、仲間同士助け合おうな。」

グラスを片手にリベルタが、笑顔で声を上げた。
「うん!」と元気良く返事をするフェリチータも満面の笑みを浮かべている。

「幹部まで、実力であがってきたんだ。少しは認めてやる。」

腕を組み相変わらず不遜な態度のノヴァだが、彼も彼なりに祝福する気持ちがあるのだろう、その口元は笑みを湛えている。

「食べることなら、このパーチェ様にお任せ!!お祝いに美味しいラ・ザーニアベスト3を教えちゃうよ!」

「もっと重要なことを教えなさい」と呆れるに、しゅんっとパーチェは肩を落とした。
くすくすと声を上げて笑うフェリチータだったが、次の瞬間「きゃっ!」と声を上げた。

「バンビーナがカポになるんだ、これから面白くなりそうだぜ・・・・・・」

デビトの腕がフェリチータの腰を捕らえ、ニヤリと弧を描いた口元は彼女の耳元を掠める。
ルカが慌ててデビトの腕からフェリチータを引き剥がすと、小さな舌打ちが聞こえた。
ルカの口元がひくりと引き攣る。

「まったく、油断も隙もあったもんじゃない・・・・・・・お嬢様。幹部就任おめでとうございます。いつの間にかこんなに成長されて・・・・・・」

感無量と言ったところか。
少し涙声のルカの言葉に、フェリチータが苦笑いを浮かべた。

「ふふ。お嬢様、これから毎日が楽しくなりそうね。何かあったらすぐに相談しに来て。お嬢様の為ならなんだって協力するわ。」
「ありがとう、。」

パチパチと盛大な拍手が響く。
全員がフェリチータの幹部就任を心から祝っている。
それを感じ取り、フェリチータは頬を真っ赤に染め恥ずかしそうに微笑んだ。









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