La storia di me e lei e loro
「報告書は読んだわ。」
執務デスクの前に深く腰を掛け、は静かに目の前に居る人物たちにそう告げた。
「無銭乗船の男が一人。追いかけて取り押さえようとしたところで抵抗。ナイフを投げてきた。で、それをリベルタ、あなたのそのご自慢のスペランツァで弾いたと。」
言葉に詰まりしどろもどろのリベルタを、フェリチータが心配そうに見上げる。
「ま、お嬢様に怪我が無くて良かったわ。それに、この件は私の管轄じゃないもの。どうせノヴァにこれでもかってほど怒られたんでしょ?」
呆れたように笑うに、リベルタも緊張が解けたように大きく息を吐いた。
「それで・・・・・・どうしてこのメンバーが呼ばれたんですか?」
どもりながら答えるルカにくすくすと笑った後、は報告書をぱさりとデスクに放り投げ、代わりに一枚の紙切れを手に取った。
「な、何故こっちを見る・・・・・・」
笑みを浮かべ言うに、ダンテが額に汗を滲ませながら一歩下がった。
「あ、お嬢様、ルカ、リベルタ。あなたたちはもういいわよ。報告書の確認だけだったから。あ、もちろんダンテは残ってね。」
呆気ないの言葉に、フェリチータが「もういいの?」と驚いたように言うと、「いーのいーの。」と軽い返事が返ってきた。
「わかってるって!お嬢!もああ言ってることだし、行こうぜ!仕事、まだ残ってんだろ?」
ダンテが何かを言いたげにリベルタを見つめていたが、解放されたことの喜びのせいか彼は気付くことなく執務室を後にしてしまった。
「それじゃ、ダンテ。請求内容の確認をお願いできるかしら?」
請求書を受け取り、目を通したダンテの表情がみるみるうちに青ざめる。
「ちょ、ちょっとまて、。駄目になった木材の費用はわかる。だが、このタイル張替え費ってなんだ!」
しれっと言うに、ダンテはそれ以上言葉も出ず、開いた口からは大きな溜息が零れた。
「請求分は来月の諜報部の予算から差し引いておくわね。」
手に持った請求書を小さく折畳み、スーツの内ポケットに仕舞ったダンテは、代わりに葉巻を一本取り出した。
「どうぞ?」
椅子を勧めデスクに灰皿を置いたは、そのまま備え付けの簡易キッチンへと向かった。
「それで?」
カフェの香りを楽しみ、一口飲んだダンテがふいに口にした問いかけに、は酷く間抜けな返事を返してしまった。
「まさか、請求書の件だけじゃないのだろう?」
呆れたように言うダンテにふふっと笑い声を零したは、デミタスカップをソーサーの上に置くと組んだ手に顎を乗せてダンテを見上げた。
「ダンテは・・・・・・パーパの真意を知っているの?『アルカナ・デュエロ』のことは知らされてなくても、引退のことは知っていたんでしょ?」
の真っ直ぐな視線から逃げるように、ダンテは葉巻の煙を宙に吐き出す。
「やっぱり・・・・・・ただ、若年層化が目的じゃないのね?パーパは今のままではファミリー内に混乱が生じるって言ってたわ。それってつまり・・・・・・」
どこか落ち着かない様子で矢継ぎ早に話すを、ダンテの静かな声が制する。
「何でも悪い方向に考えてしまうのはお前の悪い癖だぞ。」
ダンテの手がの頭に伸びる。
「ちょっ、ダンテ!子ども扱いしないで!」
恥ずかしそうに頬を染め文句を言うにひとしきり笑ったダンテは、飲み終えたカップを置き立ち上がった。
「ダンテは・・・・・・一度契約したタロッコと、契約を解除することは出来ると思う?」
僅かに顔を顰めたダンテが、溜息と共にそう答える。
「そう、よね・・・・・・」
が自嘲気味に笑った。
「俺も、それほどタロッコについて詳しい訳ではないが・・・・・・前例を聞いたことがない。もっとよく知りたいのであれば、書斎に行くかそれとも・・・・・・ジョーリィにでも聞くんだな。」
そう言い残し、今度こそダンテは執務室を後にした。
(やっぱり・・・・・・・私の想像は的外れって訳じゃないみたい・・・)
どうしても胸騒ぎが治まらないは、ダンテが駄目なのであれば残るは・・・・・・と、執務室を飛び出した。
「念には念を・・・・・・って、館内で言う言葉じゃないんだけどね・・・」
扉に手を掛けながら、誰に言うでもなく独り言を呟く。
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